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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第56回

「マグロの解体ショーぬいぐるみ」作った女子の思考回路

2009年09月07日 16時00分更新

文● 古田雄介

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もともとあるもののスキマを狙ってネタを作る

―― 乙幡さんの作品はネタ的な面白さが強烈ですが、過去の作品を見ても、「和風なものとグミが好きなんだろうな」というくらいしか思考のパターンが読めないんです。使う材料も工法もバラバラで、とりとめもない。どんな感じでアイデアを練っているんですか?

乙幡 まずネタを思いついてから材料や工法を考えていくというスタンスなんですが、発想方法は何種類かあると思いますね。

オツハタ作品その1「パチンコ・CR乙幡啓子」。おもちゃのパチンコ台をベースに、自分の写真や作品をちりばめてカスタマイズした。2009年1月に掲載した作品で、自作の中でも特にお気に入りとのこと

オツハタ作品その2「家具転倒防止邪鬼」。一般的な家具転倒防止ポールに、発泡スチロールで造形した邪鬼を貼り付けて完成。2008年9月発表

オツハタ作品その3「マグロの解体ショーぬいぐるみ」。実際の解体ショーを視察したうえで、等身大の解体用マグロのぬいぐるみを作成した。2009年5月発表

 現在の流行っているものに対して「自分がなりきってみたら面白いだろう」と考えるのがひとつあります。たとえば、最近はマンガだけでなく、特定の芸能人をフィーチャーしたパチンコがバンバン出ているじゃないですか。CR倖田來未みたいな。それの自分版で「パチンコ・CR乙幡啓子」というのを作ってみたりしました。

 あとは、日頃目にするイケてない造形のものをみて、「もっと面白くするにはどうしたらいいんだろう」と思考を練る方法。たとえば、タンスと天井の間に転倒防止のポールがよくあるじゃないですか。普通はごく平凡な突っ張り棒なんですが、あれを四天王の石像などに踏まれている邪鬼にしたらヘンな感じになるんじゃないかとか。

 そのほかには、皆なんとなく知っているけど、特に意識しない物事があると思うんですよ。マグロの解体ショーとか。そういった微妙なキーワードをもとに、何かを工作するということもあります。

 そういった感じで、もともとあるものに対して、スキマに入りこむというか、「自分だったらこうする」という意識でネタを作っていますね。すべてをゼロから作り出すということはなかなかないです。


―― 脳内で色々なキーワードと視点を組み合わせて、「没」「没」「これ採用!」という作業を高速で繰り返している感じですかね。

乙幡 あー、そうですね。結構そういう作業はいつもしています。色々な人から「どうやってそんな発想浮かぶんですか?」と聞かれるんですけど、これまで答えを用意していなかったというか、言語化していなかったんですけど、今分かりました。たしかに、そんな感じでアイデアを練っていますね。今度からそう言おう(笑)。


―― 光栄です(笑)。ただ、この方法で時事ネタを取り込むと、せっかくのネタも鮮度が落ちやすくてストックしづらくなりますよね。ネタ尽きに苦しむことはないですか?

乙幡 おっしゃるとおり、そのときそのときの経済や社会の流れのなかで「これを今やったら面白いんじゃないか」という感じでネタが浮かぶことが結構多いので、時期をずらして発表するのはあまり想定していないです。

 だから、アイデアがないときは本当にないですね。毎年、夏くらいになるとだいたいネタが尽きます。暑いし。なんだか頭の中までダラッダラになってくるんですよ。それで秋になるとシャッキリしてきて、またアイデアが浮かぶようになります。


―― これだけのキャリアがあれば、キーワードを投入するだけで過去の工法に当てはめて作るような複数のフォーマットが作れると思うんですが、それは意図的に避けているんですか?

乙幡 そういうわけではないですけど、毎回イチから作り方や材料を考える感じになっていますね。だから、企業や他の媒体に企画を持って行きにくいという点もあるんですよ。

 たとえば、工作のなかでも“刺繍ネタ”というフォーマットを作っていくつか作品を出していれば、刺繍業界に「私はこういう者で、刺繍で面白い作品がありますよ」と持っていけると思うんです。だけど過去を振り返っても、作ったものがバラバラなので、何というか、明確なコレというものがないという。

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