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リニューアルの成否をAnalyticsでアクセス解析 (5/5)

2009年08月28日 15時37分更新

文●中野克平/デジタルコンテンツ部編成課

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リニューアルは成功すると失敗する

 メディアサイトの常識として、Webサイトをリニューアルするとページビューが減ります。あるニュースサイトのリニューアル担当者は、「リニューアルすると使い勝手が変わってリピーターがあまりページを読まなくなり、ページビューが減る。しかし、どうしても読みたいニュースがあると、多少不慣れでも読み進めてくれる。リニューアル後の選挙や大事件を境に、ページビューが元に戻る傾向がある」と言っていました。

 もちろん、今回お見せしたASCII.jpのように、Webサイトをリニューアルして、ページビューなど多くの指標がのきなみ改善し、ノーリファラーのセッション数だけが減ることもあります。いずれにしてもリニューアルは鬼門です。ASCII.jpの場合も、ノーリファラーの割合がもっと多く、他の施策を同時に実施していなければ、「リニューアル失敗」と判定され、私もいまこんな原稿を書いていなかったでしょう。

 では、ノーリファラーのセッション数はなぜ33%(18万2987セッション)も減少したのでしょうか。Google Analyticsのメニューは因果関係順に並んでいますので、トラフィックメニューの指標が変化したとき、その原因はユーザーメニューのレポートにあるはずです。レポートを見ていくと、「ユーザー」→「リピート訪問数」→「リピートセッション数」メニューで表示する「セッション 詳細」レポートで、指標が大きく変化していました。

集計期間中、同じユーザーのセッションが何回あったかを見る「セッション 詳細」レポート

集計期間中、同じユーザーのセッションが何回あったかを見る「セッション 詳細」レポート

 「セッション 詳細」レポートのセッション数が少ない方にはリニューアル前後でほとんど変化がありません。しかし、繰り返すセッション数がもともと多い9回以上になると、リニューアル前後に違いが出てきます。

 まず、セッション数が15~50回を合計すると、リニューアル前の57万1099セッションからリニューアル後の45万6033へ、11万5066セッション減っています。また、51回以上を合計すると、リニューアル前の37万8847セッションからリニューアル後の71万2805へ、33万3958セッション増えています。ASCII.jpはGoogle Analyticsでの指標を公開していませんので、集計期間が何日間なのかなど、詳しい事情を書けないのが残念ですが、ある期間中、このサブドメインに15~50回訪れるミドルユーザーのセッション数が減り、51回以上訪れるヘビーユーザーのセッション数が増えた、というわけです。

 リニューアルの目的は、サイト/カテゴリートップの構成要素を整理し、記事の見出しを目立たせ、更新したことを分かりやすくすることでした。では、更新を確認しに訪れたリピーターが新しい記事を見つけて読み進めたとき、次のセッションまでの間隔は短くなるでしょうか、長くなるでしょうか。

 ニュースサイトのユーザーは、ASCII.jpだけを読んでいるわけではありません。一般ニュースやIT系ニュースなど、更新確認の巡回ルートがあります。新しい記事を見つけて読むと、「何かニュースは無いのか?」という願望は満たされ、「ASCII.jpのニュースは読んだ」と心の中でフラグが立ち、次に更新を確認しにくるまでの間隔は長くなる、というのが私の解釈です。

 一方、ASCII.jpを本当に気に入ってくれたユーザーは、巡回ルートにあった他のサイトの更新よりも、「ASCII.jpで新しい記事が読みたい」とヘビーユーザー化するはずです。期間中に51回以上訪れるヘビーユーザーのセッション数が増えたのは、Webサイトの構成はもちろん、リニューアルに合わせて楽しい記事を増やした編集部の功績でしょう。

 つまり、リニューアルが成功してWebサイトの構成が改善されると、何度も訪れてすぐに帰る人が減り、1度にたくさん読む人が増えて、平均ページビューが増えても、セッション数は減る、という現象が起こりうるのです。リニューアルでノーリファラーのセッション数が33%も減少したのは、サイト構成上の問題が解決され、新しい記事が探しやすいデザインになったのが原因、という仮説が立てられます。

「え、今回の結論なのに仮説なんですか? なんだか言い逃げのような……」――リニューアルは、Webサイトの性質や、改善前の状況によって同じ施策をとっても成否は異なります。ASCII.jpのリニューアルについては、長期間の指標の状況から、ノーリファラートラフィックの平均ページビューが増えたことで、ノーリファラートラフィックのセッション数は減った、という因果関係で捉えていますが、当初は理由がわかりませんでした。もともとノーリファラーの割合が多ければ、リニューアルが成功しても失敗とみなされるケースもあるでしょう。また、読者の皆さんのWebサイトで同じことがいえるかは分かりません。「こういう仮説もあるのか」程度に理解し、自分自身で検証することを忘れないでください。Google Analyticsはそのためのツールです。


 次回は、ノーリファラートラフィックの離脱ページについて分析します。


著者:中野克平(なかの かっぺい)

アスキー・メディアワークス技術部基盤研究課係長(兼デジタルコンテンツ部編成課係長)。ASCII.jpをはじめとするアスキー・メディアワークスのWebサイトについてアクセス状況を解析し、事業を改善する報告をしながら、基盤となる検索エンジン技術、Webアプリケーションの研究開発を担当している。

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