このページの本文へ

「年商1億のチャリンコ屋」顧客目線の値上げ戦略 (2/2)

2009年08月27日 08時00分更新

文●三浦たまみ

  • この記事をはてなブックマークに追加
本文印刷

価格競争に巻き込まれない土俵で勝負する

 “ワンランク上”の自転車をプッシュしたことは、もうひとつ大きな意味がありました。「安易に価格競争に巻き込まれずに済みました。4~6万円の自転車はもっとも売れる分、競合店も非常に多いんです。競合店が多いと価格競争に陥りますし、整備の技術が生半可な“にわか自転車屋”も続々参入するので、お客様とのトラブルも多発してしまいます。7~10万円クラスの自転車については、売っているお店はたくさんありますが、力を入れている自転車屋の数はぐっと減るので、結果、競合店とは違う土俵で勝負できます

 実際、7万円以上クラスの自転車の購入率は少しずつ上昇していき、客単価も伸びていきました。それに呼応するように、97年に2500万円だった年商は、5000万円、7500万円と順調に伸び、2001年には1億円を突破するまでになります。この額は、実店舗とネットショップを合わせた金額ですが、当時の売上比はネットショップが9割近く。ネットへの依存度は極めて高い状態でした。

 しかし年商1億円を突破した頃から、大山さんはさまざまな“限界”を感じていきます。次回は、そんな同店の転換点に迫ります。


――ネットショップのエキスパートが斬る!――

 自らのショップオーナー経験をもとに、コンサルタント、講師として活躍されている オフィス梵天丸代表平林さんに『サイクルサービスおおやま』の価格戦略について語っていただきました。



1人ひとりにコンサルティング販売――その心意気が顧客を呼び込む!

 大山さんが指摘するとおり、4~6万円というもっともボリュームゾーンの大きい価格帯の商品で勝負すると、競合店が増え価格競争に陥りやすくなります。大手スーパーや量販店などに目をつけられたら最後、価格面でも商品点数の面でも到底かないません。

 しかし本来、自転車は、数千円から数十万円までと幅広い価格帯を持ち、顧客が何を選べばよいのか悩みやすい商材です。通勤かツーリングか、その用途によってもおすすめできる自転車は変わり、顧客の身長によっても適切なフレームサイズは異なるなど、1人ひとりのお客様とのコミュニケーション、いわば“コンサルティング販売”が必要とされます。それが、コールセンターなどを置いて事務的に事を進めることが多い大手企業や量販店にはできない、小規模ネットショップの強みになります。コンサルティング販売の姿勢を持って商品を販売すれば、安易に価格に左右されませんし、なぜその商品がよいのか詳しく説明できるので、商品の付加価値を高めることにもつながります。


小売業のキホンを改めて確認しよう

 とはいえ『サイクルサービスおおやま』のような戦略は、商品の平均単価が高いお店だからできること。平均価格帯が1000円程度の雑貨などを扱うような店では、ある程度システマチックに対処しなくてはなりません。しかしながらその場合も、顧客が商品に対して何を求めているか探り、それを商品説明文などに反映させるなど、きめ細かな対応は常に念頭に置くべきです。

 そもそも小売業とは、おおげさに言えば、購入した人の人生の1ページに影響を与えるもの。たとえば、子どもの3歳の誕生日に合わせてネットショップでケーキを購入した人に、もしも何かの手違いで誕生日当日にケーキを届けられなかったら、購入者の落胆は計り知れません。一生に一度しかない3歳の誕生日を台無しにしてしまったのですから、謝罪する、商品代金を無料にするでは済まされません。

 つまり、ただモノが売れればいいのではなく、ある種の覚悟や信念が必要であり、そうした覚悟や信念なくして生き残れるほど甘くはないのです。その点大山さんには、自転車を愛し、より多くの人に乗ってもらいたいという信念を持って、よりよい商品を提供し続ける姿勢があります。店主の姿勢に顧客は敏感ですし、そうした心意気のあるお店は一度気に入ったら、よほどのことがない限りそこから離れようとはしないのです。


平林 歩:オフィス梵天丸 代表。1999年よりイーコマース事業に参入。初年度より4年連続楽天市場ショップオブイヤー獲得。ヤフーショッピングでも部門別でトップセールスを達成。2004年イーコマース総合コンサルタントとして独立。


協力:佐川フィナンシャル株式会社(http://www.sagawa-fin.co.jp/

前へ 1 2 次へ

この連載の記事

一覧へ

この記事の編集者は以下の記事をオススメしています