成長に必要なのは規制改革だ
経済成長を決めるのは、大ざっぱにいうと資本蓄積と労働人口の増加と生産性の向上だが、このうち日本では資本蓄積はそう大きくは伸びないし、労働人口は減り始めている。したがって成長率を高めるために重要なのは、生産性を高めることだ。生産性を決める最大の要因は、広い意味のイノベーションだ。イノベーションを高めるのは何かというのはむずかしい問題だが、教育・研究による知識の普及、あるいは規制をなくして企業の自由な活動を広げる規制改革などが有効だと考えられている。
ところが自民党のマニフェストには「規制改革」という項目は数行しかなく、民主党のマニフェストには「雇用にかかわる行き過ぎた規制緩和を適正化し、労働者の生活の安定を図る」と規制強化の方向が示されている。与野党ともに、小泉政権で行なわれた規制改革が「格差と貧困を生んだ」と総括し、「市場原理主義からの決別」を唱えている。
このような政策を与野党ともに唱えている国は、先進国では類をみない。たしかにアメリカの金融危機では、金融規制の失敗が批判を浴びたが、オバマ政権はこれを「市場原理主義」などと総括してはいない。欧州諸国も金融規制の見直しを進めているが、これは金融システムに限られた話であり、労働市場の規制を強化する国はない。欧米を代表する雑誌、The EconomistもNewsweekも、民主党の鳩山由紀夫代表の「市場原理主義批判」を嘲笑している。
経済を成長させるためには、企業が自由にイノベーションを行ない、起業や企業買収などによって事業の再編をし、柔軟な労働市場によって生産要素の再配分をすることで効率を高めるしかない。そういう規制改革はわかりにくく即効性もないので、選挙向きではないが、既得権を温存したまま所得を再分配しても、成長率を上げることはできない。与野党とも長期的戦略なきバラマキをとなえる今回の選挙では、有権者には意味のある政策の選択肢が与えられていないのである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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