「成長戦略」という言葉は踊るが……
総選挙の投票日が近づいてきた。多くのメディアが民主党の圧勝による政権交代を予想する中、自民党は懸命に「政権選択ではなく政策選択だ」と訴えている。たしかにそのとおりだが、4年間に4人も首相が交代し、有権者に愛想をつかされた自民党の総裁がいっても説得力はない。「どんなだめな政党でも自民党よりマシだ」と国民は思っているのだ。
特に自民党が力を入れているのは、民主党のマニフェストに「成長戦略」がないという批判だ。自民党のマニフェストでも、「経済成長戦略で、国民所得を世界トップクラスに」とうたい上げて、「10年で家庭の手取りを100万円増やす」などの目標をかかげている。しかしその具体的な内容は、「低炭素社会」などの環境対策や「中小企業の経営支援」などの企業延命策、そして「アニメの殿堂」などの産業振興政策だ。こうした政策がどう成長に貢献するのか、よくわからない。
民主党のマニフェストには、自民党も指摘するように、最初は「成長戦略」という項目がなかったが、8月11日に発表された修正版では「日本経済の成長戦略」という項目が書き足され、「子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、暫定税率廃止などの政策により、家計の可処分所得を増やし、消費を拡大します」とか「IT、バイオ、ナノテクなど、先端技術の開発・普及を支援します」と書かれている。
子ども手当などの政策が「家計の可処分所得を増やす」というのはおかしい。手当の財源は税金なのだから、これは子どものない家庭から子だくさんの家庭への所得移転にすぎず、国民経済全体の可処分所得は増えないし、成長を促進する効果もない。ITについては、民主党は周波数オークションの導入を政策インデックスに入れているが、マニフェストには入っていない。
要するに自民党も民主党も、成長戦略という言葉はかかげているが、その中身はどちらも旧態依然のバラマキ政策といわざるをえない。成長率を上げるためには、民間部門が持続的に成長する条件をつくる必要があり、政府がいくら短期的にばらまいてもダメだ。これは特定の産業を政府が振興する産業政策によって実現できるものでもない。日本のように成熟した経済では、どんな産業が成長するかは誰にもわからない。ましてビジネスの現場を知らない政府が、成長産業を選べるはずがない。
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