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ママチャリ屋が高級店に Web展開でトップギア (2/2)

2009年08月21日 11時00分更新

文●三浦たまみ

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発送方法も独自に考案、手探りから生まれた“顧客主義”

 自転車をネット販売する際、もっとも試行錯誤したのが発送方法でした。通常、メーカーから実店舗に自転車が送られてくる場合、半分に折りたたまれたような状態で到着します。しかし大山さんは、中途半端な状態で送ることを良しとせず、完全に組み立ててから発送することにこだわりました。

「組み立てをお客様に委ねると、接続不良などのトラブルが起こる確率は高くなります。安全に乗っていただくためにはそうした事態はもっとも避けなければなりません。また、初心者の方に送るわけですから、煩わしい作業は一切なしに、箱を開けたら即、サイクリングに出かけられる状態にしたかったんです」

 結局、メーカーから送られてくる箱と同程度のサイズを2つ用意し、それをつなぎ合わせて完成品の自転車を入れるという発送態勢を整えました。非常に手間はかかりますが、顧客にとって最も親切で、かつ、購入後のトラブルも最小限に抑えることができます。

 競合店もない中、まさに手探りできめ細やかなサービスを追求していった『サイクルサービスおおやま』は顧客に評価され、売上も順調に伸びていきました。そんな中、大山さんは、顧客に勧める商品の価格帯を数万円ほど引き上げるようにしていきます。とはいえ、決して儲け主義の発想からではありません。次回はこのあたりの戦略を紹介します。


――ネットショップのエキスパートが斬る!――

 自らのショップオーナー経験をもとに、コンサルタント、講師として活躍されている オフィス梵天丸代表平林さんに『サイクルサービスおおやま』のターゲティング戦略について語っていただきました。



顧客対応を徹底させ、一人ひとりの満足度を高める――それが、大手企業や量販店にはマネできない武器になる

 ネットショップにおいてターゲットの選定は重要だと言われますが、もしも潤沢に資金があり広大な在庫スペースを確保できるような企業なら、ターゲットは絞り込まずに幅広い層にアピールした方がよいケースもあります。都内の大型書店よりも商品の品揃えが豊富なアマゾンはその好例といえるでしょう。しかし小規模ネットショップにとっては、仕入れにかけられる費用にも在庫スペースにも限りがあります。ですから、商品の選択と絞り込みを徹底し、商品やサービスに関して競合他社との差別化をいかに図るべきか考えておかねばならないのです。そのためにも、まずは誰に売るべきかターゲットを明確にしてから商品を選択していき、ターゲットにとって魅力的なサイトデザインや構成を練っていく必要があります。

小規模ショップだからこそできることを考える

 ターゲットを決める際は、居住地域、年齢、家族構成、職業などさまざまな角度から考える必要がありますが、『サイクルサービスおおやま』の場合、これからスポーツ自転車に乗りたいと思っている初心者に設定しています。これは非常に秀逸な戦略です。自転車は、ロードレーサーやマウンテンバイクなど種類はさまざまあり、価格帯についても数万円~数十万円と幅広いため、何を選ぶべきなのか、素人ではなかなか分かりにくい商材のひとつといえます。

 買う際には、自転車を扱う“プロ”である店主へ相談したいと思いますし、問い合わせてみたとき、何度質問しても親身に相談に乗ってくれるお店であれば、信頼関係も培われていきます。すると、価格が安いところで買えばいいという気持ちより「このお店が売っている自転車だから買いたい」という思いに変わりますし、購入後も、何かの部品に不具合が生じたときは、再びお店で買ってもらえる確率が高くなります。つまり、初心者をターゲットにしたことで、顧客のサイクリングライフをずっとサポートし続けられるようになったのです。これは、大手企業や量販店では決してマネできない大きな武器といえるでしょう。


平林 歩:オフィス梵天丸 代表。1999年よりイーコマース事業に参入。初年度より4年連続楽天市場ショップオブイヤー獲得。ヤフーショッピングでも部門別でトップセールスを達成。2004年イーコマース総合コンサルタントとして独立。


協力:佐川フィナンシャル株式会社(http://www.sagawa-fin.co.jp/

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