通信品質を保つQoSの役割
昨今では、アプリケーションの特性に適した通信品質を確保する「QoS(Quality of Service)」の機能が必要とされるようになった。QoSを使用しないベストエフォート型※5のネットワークでは、トラフィックがネットワークの伝送能力(帯域)を超えると、パケットの種類を考慮することなくランダムにパケットを破棄する。このとき、IP電話のパケットが流れていれば、音切れを起こしたり、最悪の場合は通話が切断されてしまう。一方、QoSを使用したギャランティ型ネットワークでは、オーバーフロー時にはIP電話のパケットを優先して通過させることにより、音切れや通話の切断を防止することができる。
※5:ベストエフォート型 ネットワーク全体としては最善を尽くすように努力するが、トラフィックが増えると個々の端末やアプリケーションに対して必要な帯域や優先度が確保されず、通信が成立しないこともある。
さまざまなQoSプロトコル
大規模なネットワークでQoSを実現するには、ネットワーク内の中継機器が協調的に動作する仕組み(QoSのプロトコル)が必要である。そのため、レイヤ2とレイヤ3のそれぞれに、QoSの業界標準プロトコルが定められている(図5)。
第2回でも説明したレイヤ2のQoSはIEEE802.Q/pと呼ばれるプロトコルを用いる。これは、Ethernetヘッダにある3ビットのCoS(Class of Service)フィールドを使って、パケットの優先度を8段階(2の3乗)まで識別することができる。しかし、CoSフィールドの値は、Ethernet以外の媒体で伝送されたり、ルータやL3スイッチでルーティングされる際に失われてしまう。
このため、複数のセグメントからなるネットワークでは、レイヤ3の「ToS(Type of Service)」や「DiffServ(Differentiated Services)」などのQoSプロトコルを用いる。ToSは、IPヘッダのToSフィールド(8ビット)のうち上位3ビット(IP Precedenceフィールド)を使って、8段階(2の3乗)まで優先度を識別する。ToSフィールドの残り5ビットは、遅延・スループット・信頼性を指示する目的で確保されたが、実際にはほとんど使われていない。そのため、DiffServではToSフィールドを再定義し、上位6ビット(DSCPフィールド)を用いて64段階(2の6乗)まで優先度を設定できるようにしている。
このほか、資源予約型の制御を行なう「RSVP(Resource reSerVation Protocol)」というレイヤ3のQoSプロトコルも考案されている。RSVPは、アプリケーションに必要な帯域を事前に確保するため、ToSやDiffServよりも確実なQoSを実現するが、その反面、中継機器のCPUやメモリなどの資源を大量に必要とするため、実装している中継機器が少なく、ほとんど普及していない。
その他、アプリケーションごとに出力レートを制限することで、シェーピング(Shaping)やポリシング(Policing)などの機能もある。両者はパケットの破棄の仕方が異なっている。
(次ページ、「QoSを実現するためのL3スイッチの内部処理」に続く)
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