「写真で緊張感を水増しできたら最高」
―― 建造物ブームの到来で、なにか変化はありましたか?
佐藤 Floodgatesに関していえば、あまり変化はないと思います。ずいぶん前にアクセスカウンターも外しちゃいましたしね。ブームは2007年頃に起きたと思いますが、個人的に一番気合いを入れてやっていた頃からだいぶ離れています。だから、このブームとFloodgatesは私の中で切り離されていますね。
ただ、水門をマニア的な視点で楽しむということが、ブーム以後に割と一般化したのは大きな変化だと思います。今から水門サイトを立ち上げるなら、標本を作って「ほら、水門ってこんなにすごいんだよ」と演出しなくてもいいんですよ。普通の会話をしていて「水門っていいよね」と言ったら「うん、私も好き」と、会話が成り立ちやすくなりました。それも建造物マニアの間での話ですが、昔は通じなかったですし。
―― このブームで建造物マニアはもっと増えそうですかね。
佐藤 絶対増えると思いますね。だって、色々な建造物系の本が出版されましたけど、どれもすごく面白いんですもん。個人的に鉄塔系が割と好きなんですけど、自分がやらなくても、誰かが情熱を注いで本にしてくれるというのは、すごく楽しいですね。
私は水門について鉄板の緊張感が好きと言いましたが、おそらくダムサイトの萩原さんはコンクリートが好きなんだと思います。コンクリートの塊感ですね。そうやって、それぞれの人に響いた感性を主軸に建造物の魅力を伝えているから、読者が感覚的に共感しやすい。
―― では、Floodgatesの今後の目標を教えてください。
佐藤 全国制覇という意識はありますが、個人の農業用水用の樋門などを含めると、一生かけても個人では追えない量になるので、ある程度大きな水門を中心に、全国を回っていけたらと思いますね。全国でも水門の多寡があって、一番多い関東平野はほぼ全部回ったと思います。あとは宮城県と新潟県、静岡県に関西も多いので、ちょくちょく攻めていきたいですね。もちろんそのほかの地域も油断できませんけど。
最近までノーマークだったのは九州最大の筑後川です。熊本県から福岡県や佐賀県などを通って有明海に注ぐ川なんですが、有明海は干満の差が6メートルにもなるんです。東京湾はおよそ2メートルだから、3倍ですよね。だから、筑後川下流の水門はかなり頑丈で高さもあります。川に段差を付けるような構造物もあって、結構面白かったんですよ。そういう魅力的な水門が各地にあるので、可能な限り追っていきたいです。
―― 最後にひとつ。水門を鑑賞するにも、写真で見るのと実物を見るのとでは、印象が違うことがありますよね。どちらを先に見てほしいというのはありますか?
佐藤 まず私の写真を見て、あの緊張感を感じ取ってもらえたら嬉しいですね。そのうえで、近所にある実物を見に行ってもらって、吊られた鉄板が揺れている様を堪能していただくと。もしも実物を見て「なんだよ、意外とたいした迫力ないじゃん」と思ったとしたら、それはそれで写真家冥利につきます。実物より緊張感を伝えられるなんて最高ですね(笑)。 そういうふうに確かめてもらうのも、また楽しさだと思いますし。
筆者紹介──古田雄介
元建設現場監督&元葬儀業者&現古銭マニア&毎週仕事で秋葉原と都内量販店に足繁く通う毎日を送る現デジタルライター。現在、ASCII.jpの姉妹サイト「wakuteka.jp」にて、当連載50回記念特集「もっと顔の見えるインターネット」を更新中です。「古田雄介のブログ」では、皆さんのお勧めサイトを募集中です。
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