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インフラ&ネット技術の今と未来 第5回

IPネットワークの進化と課題

3年後にはIPv4アドレスが枯渇?

2009年11月24日 09時00分更新

文● 村上丈文、中野功一

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グリーンIT化

 世界的なエコロジー熱の高まりを受け、IT業界においても環境対策としてのグリーンIT化が始まってきている。経済産業省の資料によると、ITによる電力消費量は2006年度時点で発電量の約5%を占めており、現在のペースで増加し続けると15%~20%に達するとされている。したがって対策が必要になってきていることも確かである。

 グリーンITには、機器の省電力化に焦点を当てた「Green of IT」ITを使った積極的な電力消費量抑制を目指す「Green by IT」の2種類がある。まずGreen of ITという観点では、シスコシステムズやジュニパーネットワークスなどの海外メジャーベンダーや国産ベンダーが低消費電力を売りとした製品を投入したり、取り組みを発表している。特にアラクサラネットワークスなどは、製品の低消費電力化に加え、未使用のモジュールの電源をオフにするなどきめ細かい対応を見せている(写真1)。

写真1 ポートやスロット単位の電力制御などが可能なアラクサラネットワークスのシャーシ型スイッチ

 一方、Green by ITの観点では、ITによる電力監視などの研究が各国で進んできている。グーグルが2月10日に発表したGoogle Power Meterもこの1つで、ネットワークを介して各家庭や企業にあるスマートメーターと呼ばれる電力計の監視や制御を行なう仕組みを提供している(画面1)。スマートグリッドといった大規模な電力送電コントロールなどの仕組みと連携することで、使用量に応じた電力プランの変更や状況に応じた送電量の変更などをダイナミックにコントロールできるようになり、結果として各家庭や企業の電力料金も低く、電力消費の効率性も高くなることが予想される。

画面1 電力消費状況をインターネット経由で監視する「Google Power Meter」

 もっとも、スマートグリッドなどの新技術は最近になって多くの脆弱性が報告されており、成熟するまでにはまだ時間もかかる。また、国内では欧米ほど電力自由化が進んでおらず、送電線やシステムもあまり老朽化していない。そのため、これらの技術の進展速度は、そう速くはないかもしれない。ただし、もし普及すれば「各家庭や企業の機器のダイナミックな監視やコントロールといったオプションを付加したネットワークサービス」なども登場してくる可能性があるだろう。

3年後に迫るIPv4枯渇

 さて、ここまではやや楽観的論調で3年後に関する予測を行なってきたが、現実的には3年後を見据えた際にリスクも見え隠れする。その代表が、IPv4アドレスの枯渇である。ジェフ・ヒューストン氏の運営する「www.potaroo.net」ではIPv4の枯渇に関するさまざまなグラフを公開しているが、これによると何らかの延命策を採らない限りIPv4の数は今年から遅くとも2012年ごろには枯渇する、とされている(画面2)。

画面2 IPv4枯渇状況をレポートするジェフ・ヒューストン氏のWebサイト

 IPv4枯渇への根本的な対策は、IPv6への移行だろう。しかし、あと数年で大々的な移行が可能だとは思えず、IPv4の延命策が検討されている。その代表例が、ISPのユーザーに対する「プライベートアドレス」の割り当てと「キャリアグレードNAT」の導入だ。現在、ほとんどのISPはユーザーにIPv4のグローバルアドレスを割り当てている。これを止めてしまえばIPv4アドレスは大幅に節約できる。ただし、既存のクラスA~Cのプライベートアドレスは、ユーザーのネットワーク内で使われている可能性がある。そのため重複が生じないような配慮が必要になるだろう。

 また、キャリアグレードNATは、基本的な動作はブロードバンドルータのNATと同様だ。つまり、複数のプライベートアドレスを1つのグローバルアドレスに変換し、ポートアドレスでこれを区別する仕組みとなる。ただし、ISPが抱える数万から数十万ものユーザーに対してIPアドレスの変換を行なうため、家庭や企業で使うNATとは桁違いのパフォーマンスが必要となる。こうした条件に対応できるよう開発されているのがキャリアグレードNATだ。

 ただし、昨今のWebアプリケーションは100~1000規模のセッションを使うものも出てきていることを考えると、キャリアグレードNATを導入しても削減効果には疑問が残るとの指摘もある。また、ボット化したPCにより大量のポートスキャンなどが行なわれたりすると、変換用のアドレスなどは一気に消費されてしまうだろう。これに対して、ユーザーが使用可能なポート数に制限をかける案もある。しかし、ポート数の制限は使い勝手の低下につながり、現在提供されているサービスよりも実質グレードダウンすることになる。これでは、ユーザーからの理解を同一価格では得られない可能性もある。

 IPv4アドレスの枯渇が現実になりつつある昨今、残された時間で山積する問題を解決できるのか。各事業者には課題解決とともに、さらなるブロードバンド化や多様な機能やアプリケーションの提供を期待したい。

筆者紹介:村上丈文(むらかみ たけふみ)


ユーザー企業のネットワークエンジニアから、ネットワークインテグレータに転職。サービスプロバイダ向けコアルータを担当したのち、テクニカルマーケティングに転向。現在は次世代のネットワーク技術やサービスなどについて調査しつつ、新製品やサービスについて模索する毎日。


筆者紹介:中野功一(なかの こういち)


米レッドバックネットワークスの日本市場を担当。外資系ネットワークベンダー7社でサーバやらルータにかかわる。レッドバックもエリクソンに吸収されるため、晴れて外資系ネットワークベンダー8社目の社歴を得ることになりそうな今日この頃。


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