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インフラ&ネット技術の今と未来 第3回

18年の歴史を刻んだオープンソースの雄

Atom登場が追い風となるLinux

2009年09月09日 06時00分更新

文● のりぞう

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さらなる普及を目指す仮想化

 1999年にVMware Workstationが発売されると、PCで仮想化ソフトウェアを利用することが一般的なことになった。VMware Workstationはx86アーキテクチャのCPUを搭載したPC上で仮想的なPC環境を実現するソフトウェア。ゲストOSのユーザーモード命令をソフトウェアでエミュレートすることなくCPUに実行させるために、高速な動作を実現した。それ以前にもPCで動作するエミュレータソフトウェアはいくつかあったが、これらはCPUの動作をソフトウェアで処理するため、Macintoshやビデオゲーム機など異なるアーキテクチャのハードウェアを模倣できるというメリットがあった。その反面、仮想化ソフトに比べると格段にパフォーマンスが劣る。

 仮想化ソフトウェアの登場とハードウェアの性能向上が相まって、PC上での仮想化技術の利用は急速に進んだ。仮想化ソフトウェアの実装は2つに大別できる。1つはVMware WorkstationやVMware ServerのようにホストOS上で動作するホスト方式のもの。もう1つはVMware ESX やオープンソースで開発が進められている、XenのようにホストOSを介さずにハードウェア上で直接動作するハイパーバイザ方式のものだ。仕組み上、後者のほうがパフォーマンス面で有利となる。

 Linuxでサーバの仮想化を行なうには、XenかVMwareを用いることになると誰もが思っていた。しかし、2006年10月にイスラエルのクラムネット(Qumranet)社がKVM(Kernel-based Virtual Machine)を発表すると、わずか2カ月後にはLinuxカーネルに統合され話題になった。さらに、レッドハットが同社を買収したことで、ますます脚光を浴びた。KVMはLinuxカーネルをハイパーバイザとし、ハードウェアの仮想化とユーザーインターフェイスに既存のPCエミュレータソフトQEMUの改造版を用いる。

 これらの仮想化ソフトウェアのいずれが主流になるかはまだわからない。しかし、仮想化によってサーバを統合することで、ハードウェアのメンテナンスコストや設置面積などを節約できる。導入に向け検討を進めたい技術だ。

組み込み用途

 ネットブックブームで一躍有名になったインテルのAtomプロセッサファミリーだが、これは本来モバイルネットワーク端末などへの組み込み用に開発されたプロセッサである。こうしたこともあって、インテルはAtomベースのシステムをターゲットにしたLinuxプラットフォーム開発コミュニティ、Moblin Projectを支援している(画面3)。

画面3 Moblin ProjectのWebページ。Atomプロセッサファミリーで動作するネットブック、モバイルインターネット端末(MID)で動作するLinuxプラットフォーム、「Moblin」を開発するオープンソースコミュニティ

 これはネットブックを足がかりに、低消費電力で小型のx86アーキテクチャCPU(x86-64に対応する製品もある)を組み込み分野で普及させたいというインテルの思惑が見え隠れする。こうした状況は、Linuxにとって追い風になる可能性もある。今後のAtomの動向にも注目していきたい。

コラム:Linuxのマルチアーキテクチャ対応

 Linuxの移植が最初に試みられたのは、モトローラ68000系のCPU(モトローラではMPUという)だった。これにより、MacintoshやAtari、AmigaでLinuxが動くようになった。Linuxの作者リーナス・トーバルズ氏によれば、Amigaコミュニティが行なったこの移植は、x86向けのLinuxカーネルを680X0向けにゼロから開発し直したものだったという。

 のちにリーナス氏は、DECのRISCマイクロプロセッサAlphaを搭載したワークステーションを入手し、これにLinuxを移植する。このとき同氏は単一のソースコードツリー内に、アーキテクチャ依存のツリーを整理した。この移植作業にはおよそ1年が費やされたが、結果としてLinuxの移植性は劇的に高くなった。

 こうしてLinuxはPowerPC、SPARC、SH、x86-64、IA-64、s390といった多くのアーキテクチャをサポートするようになった。IBMのメインフレームSystem z(s390、s390x)への移植は1998年頃IBMドイツの社内で行なわれ、数名で作業をしてわずか3カ月で実験的に動作させることができたという。この移植版は1999年12月に公開され、Linuxカーネル2.2.14以降でs390とs390xは標準サポートアーキテクチャになった。

 Linuxカーネルのソースコードツリーに含まれるアーキテクチャ依存ツリーには、i386(x86)とx86_64や、ppc(PowerPC)とppc64、s390とs390xのように、同系列の32ビットCPUと64ビットCPUに対応するディレクトリが存在した。これらの内容には重複している部分が多いことなどから統合が進められ、管理コストの低減とコードツリーのスリム化が図られている。

筆者紹介:のりぞう


カシオFX-702P、シャープMZ-2000、エプソンPC-286、PC/AT互換機でコンピュータ遊びを覚える。コンピュータ・出版関連企業のサラリーマンを経て現在はフリーのライター。苦手なものはナッツ・豆類。


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