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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第78回

自動車は「走るパソコン」になるのか?

2009年08月05日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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電力ネットワークで「日米の逆転」は再現するか

 さらに重要なのは、自動車がいつまでガソリン・エンジンで動くのかという問題だ。今のところ、ハイブリッド車がようやく実用化したばかりで、電気自動車は速度も走行距離もガソリンにはとてもかなわない。しかしこれは電池の限界で、ガソリンスタンドのように充電できるプラグイン型の電気自動車ができれば、性能も経済性も格段に上がることが期待できる。また充電された自動車は、家庭の電源にも使える。

 これは自動車技術だけの問題ではなく、社会のインフラ全体をガソリンから電気に変える大転換である。現在の電力ネットワークでは、電力会社の契約者以外に送電することはできないので、ガソリンスタンドのような場所で「公衆送電」はできない。技術的にも、不特定多数に送電することによって電圧が不安定になるなど、多くのリスクが考えられるので、電力会社はプラグイン電気自動車には乗り気ではない。

 しかしアメリカ政府の打ち出した「グリーン・ニューディール」では、送電網を全面的に更新して情報ネットワークで制御するスマート・グリッドが計画されている。まだ構想の段階で、どこまで実現するのかはわからないが、GEなどの電機メーカーだけではなくIBMやグーグルが参入しているのが注目される。これは1990年ごろのインターネット普及前夜を連想させる。かつて電話網がインターネットによってコンピューター・ネットワークに変わったように、今度は送電網がコンピューター・ネットワークに変わるのかもしれない。

 こうなると自動車は、スマート・グリッドの「端末」になり、インターネットとも統合された「走るパソコン」になるだろう。現在の乗用車は2万点以上の部品からなる複雑な機械だが、エンジンやトランスミッションの必要ない電気自動車は、数百の部品を組み立てるだけでよい。部品が標準化されれば、パソコンのように部品を秋葉原で買ってきて消費者が組み立てることもできるようになり、「すり合わせ」の優位性は失われる。

 つまりインターネットで起こった産業構造の変化が、もう一度エネルギー産業で起こる可能性があるのだ。一般には「グリーン」の面ばかり注目されているが、これは大衆向けのレトリックにすぎない。オバマ政権の政策のコアはエネルギー戦略にある。特にスマート・グリッドを電力のインターネットにすることによって、アメリカ企業の国際競争力を回復することが重要だ。 20年前には、アメリカ経済はインターネットによって再生し、すり合わせにこだわった日本の情報産業は全滅したが、今度はどうなるだろうか。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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