「すり合わせ」から「組み合わせ」に変わる自動車
世界経済危機によって日本で最大の打撃を受けたのは輸出産業だったが、大幅な設備削減や人員整理などによって業績は回復してきた。日本の輸出産業は、変動相場制のおかげで需要変動に対する調整能力は高いので、景気回復を主導するのも製造業だろう。売上は元の水準に戻らなくても、収益はある程度回復するのではないか。世界的にみても、デトロイトの自動車メーカーが全滅した今、中級以上の乗用車では日本の優位性が拡大すると予想される。
問題は、長期的にこの優位が保てるのかどうかということだ。日本の製造業の優位性が、多くの部品の精密なすり合わせによって品質を高める能力にあることはよく指摘されるが、パソコンなどの情報通信機器では、要素技術がモジュール化されて、市場で売っている部品の組み合わせだけで完成品ができるので、日本企業の得意技が生かせなくなってきた。そんな中で、すり合わせの優位が最後まで残っているのが自動車だ。
自動車でも、トラックなどはモジュール化されているので、アメリカメーカーが強い。このためアメリカメーカーは、RV(レクリエーショナル・ビークル)のような「トラック型」の乗用車で競争力を保ってきた。日本メーカーが優位なのは、車体とシャーシが一体化した「モノコック型」の乗用車だ。今のところ、乗用車の世界市場ではモノコック型が主流である。車体とシャーシを別にすると、強度を高めるためには重く大きくなり、不格好なデザインになってしまうからだ。
しかし中国やインドでつくられている大衆車は、エンジンまで外注するモジュール化によって低価格を実現している。デザインはごついが、インドの「タタ」などは20万円を切る価格を実現している。世界の自動車市場でも、2009年にはアメリカが23%、欧州が15%のマイナスと予想される一方で、中国は10%以上成長し、年末までに米国市場を上回る、とBusinessWeek誌は予想している。日本の得意とする、すり合わせの市場は相対的に縮小しているのだ。

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