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古川 享×清水 亮×遠藤 諭

「第参回天下一カウボーイ大会」開催記念座談会

2009年08月25日 23時58分更新

文● 天下一カウボーイ大会実行委員会

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失われしトキワ荘を求めて

清水:こうやっていろいろお話を伺ってると、世の中にはまだまだ自分の知らない面白いことがあるんだな、って強く思うんですよ。僕らの目の前には、今すぐ手を出せる領域としてウェブとケータイとiPhoneがあるんですけど、それに集中してしまうとどうしても視野が狭くなる。でも、まだまだプログラムで世の中にアピールできる領域っていうのはもっとずっと広くて、しかもどんどん広がってるんだなと感じます。

古川:僕はね、世の中にアピールするためには、個のポテンシャルをつなげて引き出す場っていうのがもっと必要だと思う。この間もある著名人の出版パーティに出席したんだけど、その席にいる人たちだけでも、この技術とこの技術をくっつけて、このメディアに取材させたら面白いなって組み合わせがいくつもその場で見つかるわけ。そういう、可能性と可能性をつなぐ場みたいなものが、昔はあったのになんでなくなっちゃったんだろうと思ったらさ……。

遠藤:なんでなくなったんですか?

古川:アスキーがなくなったからだよ!

遠藤:……アスキーがそういう役割を果たすような場所ではなくなった。

住友南青山ビル

1983年当時に、アスキーが本社を構えていた骨董通り沿いの住友南青山ビル。記録には4、5階に入居していたとある

古川:アスキーっていうのはね、電通大の学生も早稲田の学生も、文学部も政経も理工系も関係なくね、アルバイト代はともかくとして最新のマシンを好きに使える環境でさ。そういう中で、子供たちがメンコやベーゴマで横丁で遊んでいるような感じで、プログラマーたちが刺激をし合ってた場所があって。で、それをアスキーの社員がうまくビジネスにして、世の中にデビューさせてあげたり、そういうパイプがあった。今はそういう場がないんだよ。

 アスキー・ラボラトリーズや骨董通りのアスキー編集部/出版部だけでそういうことをやっていたわけじゃなくて、九州大学や金沢大学や大阪大学の前にアパートを借りて、そこに最新のマシンを4台から6台くらい並べて、自由に使えと。電気代とマシンは面倒見てあげる。で、成果を見せてごらんって言ってほっとくわけ。でも、半年くらい経つと、みんないいもの作るんだよ。その中から、よさそうな子を「3泊5日デバッグの旅」とか言ってシアトルに飛ばして、マイクロソフト本社で夏休みにインターンやらせてみたり。もちろんアスキーの社員にスカウトしたりもするんだけど、社員にならなくても、そのあとそれぞれのバイト君たちがIBMに勤めたり、富士通に勤めたり全然別のことをやっていても、「同窓生」としてゆるくつながってるっていう状態があって。

清水:フォーラム、サロン的なつながりですね。

古川:で、僕が逆に聞きたいのはさ、天下一カウボーイ大会に集まってくる子たちって、どこに、どうやってつながってるのかってこと。カウボーイ同志お互いを刺激しあう会話をする以外に、技術としての評価やアドバイスをしてくれる大人との接点はあるのか、お金を出してくれるような大人との接点はあるのか、とかさ。そういうパイプラインをうまくつないでいくきっかけにね、自分たちがなればいいなあと思ってね。

遠藤:天下一長屋、かな。

古川:誰かにね、「アスキーの時代って、トキワ荘だったんですね」って言われたことがあってさ。夢だけをもって上京して一つ屋根の下で同じ釜の飯を食って、後で気がついてみれば有名なったあの人は昔隣にいた、みたいなところがさ、「トキワ荘と同じですね」って。

清水:ぼくも「まんが道」が大好きなんですけど、藤子不二雄さんなんかも、あまり金銭的に豊かではなかったんだけど、「漫画描いて生きていられたら幸せだなあ」ってそればかり言ってますよね。たぶん、天下一カウボーイ大会に出てくる人には三種類いるんです。もうトキワ荘を出て行ってしまった人と、これから入ってくる人、もしくは今住んでる人。古川さんが言われたように、今チャレンジしている人たちが次のステップに進むためのきっかけの場になれるといいですね。

遠藤:若い人が育つということもさることながら、ものすごく普通の人たちのメンタリティを補完する場もなくなってきていますよね。昔だったら、例えばメーカーに勤めている技術者とかサラリーマンはね、『ビッグコミック』とかを読んでね、ゴルゴ13とか子連れ狼とか、そういうものをロールモデルにモチベーションを保っていた。そこに自分を投影させたり、人生観というものを学んだりして、世界と戦う気になったし、頑張れたというのがあったと思うんです。今、ネットなどによって、新聞とかテレビなどの情報メディアの崩壊ということが叫ばれていますが、こういう「メンタルメディアの崩壊」こそ、本当の意味でのダメージがあるのではないかと思うのですよ。

清水:そういう中でblogなんかもそうだけど、読者目線不在の記事がどんどん増えてきてる。僕は頼まれて雑誌に記事を書いたりするんですけど、編集者の人もあまり手を入れたがらないんですよ。なにか、メディアっていうもの自体がどんどん変質してきている。

遠藤:天下一カウボーイ大会も、メディアみたいなもんだよね。

清水:まさに前回のカウボーイ大会で、「イベントも一つのメディアだよね」っていう話を福岡さん(註:福岡俊弘/週刊アスキー編集人)としていて。これはほとんど編集された会なんだ、と。だから誰がどういう順番でしゃべるかは説明せずに、いきなり頭から始まって夜まで引っ張るんです。「食わず嫌いしないで」ってことなんです。雑誌みたいなものなんですよ。

 僕が月刊アスキーを読んでいて楽しかったのは、まず広告が結構楽しくて、そのあとニュースがあって、特集があって、疲れてきたところになぜか哲学者がMS-DOSをどう使うか、みたいな話が載っていて、スーパーコンピューターがどうのとかニューラルネットワークがどうのって話が載ってて。ニューラルネットワークっていう言葉自体を知らなかったらそもそも興味の持ちようがないし、哲学なんてさらに縁遠いと思うんですけど、そうやって幕の内弁当的に作られていることで、「結構面白そうじゃない」ということになる。僕はそれが雑誌の重要な機能だと思っています。最近の雑誌は読者のほうを向きすぎていて、ある意味無駄がないんですけど、キーワードを拾って次につながっていく、ということがなくなってきてる気がします。

遠藤:僕のイメージでは雑誌というのは、「学校」なのですよ。普通の学校ではコンピューターの進歩に追いつけないから、教えられない。教科書にも載っていない。それを教えてくれる学校が「雑誌」なんですよ。

清水:学校という話で言えば、天下一カウボーイ大会は「学芸会」ですよね。「文化祭」というか。いろんな人の承認欲求を満たす場であり、そういう人のミームを受け取る場所でもある。やっぱりね、お客さんを連れてきて「ほら見なさい!」ってやらないと、絶対にリーチできないものもあるし。そういう普通ならたどり着けないものも、「天下一カウボーイ大会」っていうブランドが保証してあげて、今までのが好きだったらこれもきっと面白いよって勧めてあげることで、視野が変わってくることもあると思うし。まあ、全部が全部、気に入ってもらえるとは限らないんですけど。

 でも実際に、カウボーイ大会がきっかけで、情報処理の学部に転部した学生の人もいますし、責任を感じますけど。

遠藤:最近、僕はセミナーをやってて発見したことがあるんですが、生イベントでは、言ってる本人も気がつかないのに、相手がそれを聞いて、全く新しい知識を引っ張り出す瞬間がありますよね。イメージとしては、データマイニングならぬ「ブレインマイニング」ともいうべきことなんです。そういう瞬間がね、一時間に一回くらいあるんですよ。意見交換とか、討論するとか、ディベートとか、そういうこと自体とはちょっと違うものになることがある。耳の穴から手を突っ込んで、相手の脳みその中からその人も気づいていないおいしいところを引っ張り出すみたいな感覚。そういうことが、生で人が集まると今は生じますよね。

清水:とにかくね、「世の中には、蔑ろにするには面白い人が多すぎる」っていうのが、今回イベントを準備してて感じてることなんですよ。今回来る人は、今までにも増して面白い人が多いんですよ。

遠藤:その人たちの脳みそは楽しみですねぇ。

古川:他のセミナーの演目を見てると、「どうするよ?」っていうようなのが出てることもあるね。

清水:そういうのがはびこることこそ、メディアが無責任なんだと思うんですよ。

遠藤:本当に凄いものも、見せかけだけのものも、同じように報じられていたりしますからね。見極めが難しくなってきているのも事実ではありますが。

清水:そういうのを見てるとね、インチキを見破れない人が多すぎるんだと思うんです。技術的なセンスのない人が多いから。そういう人にも目を養ってもらいたいって意味で、「本物」を見せたいんです。

遠藤:同感ですね。この対談の締めとしてもいいですよ。

清水:本日はお忙しいところ長時間お付き合いを頂き、本当にありがとうございました。



※本記事は、「第参回天下一カウボーイ大会」Webページに掲載された鼎談「魂を継ぐものたち」を転載したものです。

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