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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第75回

不況こそは起業のチャンス

2009年07月15日 16時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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起業は自分の人生を自分で決めること

 こうした意識の変化は、日本企業の経営にも大きな影響を与える可能性がある。日本の企業は、大卒の社員にも若いときは「雑巾掛け」をさせる習慣がある。銀行だったら自転車で集金させたり、メーカーだったら工場の現場監督をやらせる。これは将来、幹部になったときも「現場」の苦労を知っておくようにという意味とともに、最初の数年間はホワイトカラーとしての技能にならない仕事をわざとさせ、本社に戻って勤務しないと元が取れないようにして社員を囲い込んでいるのだ。

 しかし就職するほうも、最近はこういうやり方を知っているから、徒弟修行の長い会社は嫌われる。特に人気が無いのが官庁だ。昔なら、若い頃は我慢して月に200時間も残業していれば天下りが保証されたが、今はその保証が無いものだから、若いうちに能力を発揮して高給を取れる外資系企業の人気のほうが高い。企業側も昔のような徒弟修行型のキャリアパスは改めるようになってきたが、そうすると入社3年ぐらいで辞める若者が急増してきた。

 これは当たり前だ。大学を卒業するときの数回の面接でその人の適性がわかるはずもないし、自分の人生でやりたいことが見つかるはずもない。それにその時点の企業業績が永遠に続くこともありえない。20年ぐらい前までの日本企業では、こういう好条件が偶然そろっていたから特殊な雇用慣行が維持できたのだが、その条件が崩れた以上、社員も企業も数十年のサラリーマン人生のリスク管理を考え、やり直しのきく社会に変えるべきだ。

 その選択肢の中に起業が入ってくるのも当然だ。もちろんリスクは高いが、成功しても失敗しても自分の責任だから、気持ちの整理がつけやすい。アゴラのシンポジウムで日本の起業家の元祖である西 和彦氏は「起業の目的は金じゃない。自分の人生を自分で決めることだ」といっていた。

 一般には、不況の時には資金調達が難しいため、起業が減ると言われる。事実日本の開業率は史上最低を記録しているが、それは起業の条件が悪いことを必ずしも意味しない。シスコもオラクルもマイクロソフトもアップルも、アメリカ経済が沈没するといわれた1980年前後に誕生している。不況期に創業した企業は競争率が低く、業績予想を慎重に見積もっているので生存確率が高い。不況期は起業のチャンスなのだ。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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