アップルの「Reject」に対応して登場した手法
電子出版の老舗、ボイジャー・ジャパンと、800サイトが利用するモバイル・コミック・ビューア「BookSurfing」を提供するセルシスは、共同でブースを出展し、iPhone OS 3.0にあわせて発表した「理想BookViewer」をはじめ、GoogleのAndroid携帯向けの配信ソリューションのデモンストレーションなども行なっていた。
さらにプレゼンテーションブースではアスキー新書から3冊のアップル関連書を出しているテクノロジー・ライターの大谷和利氏が講演を行ない、アップルと電子書籍を関連づけつつ、その歴史を紐解き、最新の電子出版事情について語った。
興味深かったのは、大谷氏が執筆した2冊(「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」)についての話だ。「iPhoneをつくった会社」の発行時に、この2冊をiPhoneアプリとしてリリースする予定だったが、アップルの審査による「Reject=排除」で紙と電子の同時出版は夢と消えたそうだ。
このRejectの理由はアップルとの契約のため、詳細は公開されていないが、この件以降、アップルは「アップルについて書かれたものはすべて除外」という方針を示している。自社の不利益に繋がる可能性のある(大谷氏の著書はアップルならびにiPod批判の書ではないが)ものを排除しようというのは決して間違った考えではないが、これは出版の自由が認められていない、という事に他ならない。
こうした課題への対応策として出てきたのが、「理想BookViewer」を使ったボイジャーの新たな電子書籍販売サイト「理想書店」だ。iPhone OS 3.0の新機能には「In-App Purchases(アプリ内課金)」という、アプリケーションからコンテンツの追加購入が行なえる機能があるが、実はアプリ内課金をそのまま使うと、結局は新しいコンテンツを加える際にアップルの審査が必要になり、ビジネスチャンスを逸してしまう可能性がある。
そのためボイジャーでは、コンテンツは理想書店のサイトで配信、課金・決済する。書棚機能も持った無償の理想BookViewerのみをApp Storeでダウンロード配信するという仕組みだ。これにより出版社はタイミングよくコンテンツをリリースでき、アップルはますます増加する審査から解放される。
ビューアーを無償でApp Storeで提供して、コンテンツの提供、課金・決済は自前のサーバから、というこのやり方は米国Amazon社が提供している「Kindle」のiPhoneアプリ版もほぼ同じ手法を取っている。App Storeの課金システムを使わないこのやり方が普及すれば、いずれアップルも打撃を被る可能性は高いが、そうなった時、アップルはどのような対応を図るのか興味深い。