x86のSoCを投入
NSに買収も新製品開発は途絶える
Cyrixはこれらに続き、2D/3Dグラフィックス機能やメモリーコントローラー、共有2次キャッシュメモリーを搭載するシステムオンチップ(SoC)「Cayenne」や、Direct RDRAMを2チャンネル搭載したり、高速動作を可能にするCPUコアを搭載した「Jalapeno」コア、さらにその先には「Serrano」(詳細不明)などを予定していた。少なくとも、1998年10月に開催された半導体に関する学会「MicroProcessor Forum」では、こうしたロードマップが公開されていた。
またこれらとは別に、M2コアのインターフェースを当時の「Socket 7」から新しい「Socket 370」互換とするとともに、2次キャッシュを搭載(従来は1次キャッシュのみ)、0.18μmプロセスを使うことで高速化した「Gobi」プロセッサーも開発されていたのだが、これが突如としてすべて保留されてしまう。
これに先立つ1997年3月、CyrixはNSの子会社として買収される。Cyrixはこれにより、資金面での不安を解消するとともに、NSのファウンダリーと密接な関係を持てたし、NSはファブ(半導体製造工場)の稼働率を上げるとともに、製品ラインナップを増やすという利点を持てたはずだった。しかし、NS自身が財務上の問題に直面したり、NSが期待したほどには稼働率の向上や製品ラインナップの増加が得られないという問題もあった。
その結果、1999年5月にNSは、Cyrixの売却とパソコン向けCPUビジネスからの撤退を発表。以後売却先の交渉に入り、同8月にVIA TechnologiesがCyrixを買収する(関連記事)。Cayenne・Jalapenoコアはこの時点で消え、ほぼ開発が終わっていたGobiのみが、「Joshua」とコード名を変えて生き残り、2000年2月にCyrix IIIとして一時発売されかかった。
“されかかる”というのは、一応サンプル出荷は開始されており、実は筆者も一度ベンチマークテストした経験があるからだ。プロセッサーと一緒にリリースされた仕様書は、表紙こそJoshuaとか書いてあるが、中には「Cyrix Gobiプロセッサー」といった表記がそのまま残されていた。
しかし、このJoshuaは発売されないままに終わり、これまでCyrixが培ってきたCPU資産のほとんどはそのまま死蔵される事となった。設計チームも分散してしまい、唯一残されたのはCyrixとインテルの訴訟の結果残された、いくつかの権利のみという形になってしまう。
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