「建築家向けの情報誌」のような
ニッチメディアにこそ可能性がある
―― 雑誌と同様に気になるのはコンテンツの今後です。ウェブと親和性の高いコンテンツは何十万部も刷るような「ベストセラー」系の書籍なんでしょうか、それとも千部単位のニッチな書籍なんでしょうか。
小林 話題になった「ロングテール理論」をメディアに置き換えた場合、有名出版社はショートヘッド、売り部数の小さな自費出版のような書物はロングテールにあてはまります。
そして、その中間になるトルソー(胴体)は、ミリオンセラー未満、小部数以上になり、今後は商業出版のボリュームゾーンになるでしょう。その領域はプロやセミプロの手になるコンテンツが台頭するものと考えられます。
むしろ、マスに訴求できるミリオンセラーの数が低減し、多くは一定数の読者を魅了するコンテンツとして、大手出版社から見ればニッチでしょうが、全国区での知名度はなくとも特定の分野では影響力を十分に保持できると思います。今後、さらにそのようなトルソーに位置する少数精鋭型のメディアは増えるだろうと考えています。
たとえば建築家向けに資材選びができる情報があったとしたら、ものすごく強力なニッチメディアですね。実際にそのようなメディアは存在します。ウェブで重要なことは「深堀り」です。
専門性の高い分野で、換金化を念頭においたテーマ設定がより重要になってくるでしょう。その意味でウェブと親和性が高いメディアは専門性が高いBtoB(法人向けビジネス)コンテンツだと思われますが、日本ではそういう出版社こそあまりウェブに進出していない。欧米ではそのようなBtoBの専門出版社の買収・統合は珍しくありません。
―― コンテンツを買収する/されるという考えは、なかなか日本の出版社には馴染みづらい考えのように思えます。
小林 これから世代交代に従って増えてくるものと思いますよ。たとえば、数千部単位の本を発行しているごく小さなメディアがいくつかあり、そこが確実に収益を上げているのであれば、それらをまとめて買収するといったモデルもあるかもしれませんし。
それに日本語圏だけではビジネスの規模が小さすぎるということもありますよね。英語圏では読者のケタが違っていて、ウェブ進出の加速化が進みやすい。
中東のニュースを届けるアルジャジーラは、すでにアルジャジーラ・イングリッシュの名前で世界主要国に向けてニュースを発信していますが、日本はまだそういった他国語展開に消極的です。
たとえば日本のサブカルチャーを伝える老舗ブログに「GIANT ROBOT MAGAZINE」というものがありますが、最初は2人のアメリカ人が創設しました。これは本来なら日本人がやれたかもしれない分野ですよね。
もちろんネイティブが読んで、ネイティブに「ささる」ような書き口ができるかどうかは難しいところかもしれませんが、それができる人に任せることもありえますし、たった2人からでもスタートできるのがウェブの面白さだと思っています。今後日本からもそんな可能性が出てくるんじゃないかと期待しています。
―― 海外に対して日本が強みのある情報はサブカルチャーが主なんでしょうか。
小林 いや、そんなことはないと思いますよ。たとえばカメラやバイク、クルマなどに関しては日本はやはり大国です。海外のブログからの問い合わせも多いですし、「なぜ(翻訳版の情報サイトを)やらないんだ」という話もあったくらいです。