電子書籍に足りない点を埋めるEZブック
本らしい端末は登場した。では書店はどうするのだろう。KDDIの電子ブックへの取り組みと今後について、KDDI株式会社コンテンツ・メディア本部 コンテンツサービス企画部の髙瀬光弘氏を交えてうかがった。
「電子書籍のサービスは、auがWINのサービスを始めたタイミングから大容量コンテンツの1つとして始めました。電子書籍もEZwebの市場拡大に貢献しています」(髙瀬氏)。
今回のbiblioは、KDDIとして、電子書籍のマーケットをさらに拡大し、一般的に定着させようというタイミングを狙ったフラッグシップ端末という位置づけにある。またコンテンツについても充実をすすめる。
これまでの電子書籍は特定のジャンルが中心だったことは髙瀬氏も指摘している。マンガが圧倒的に多く(8割強)、そのコミックの中でも特にボーイズラブ、ティーンズラブのジャンルが多いという。もちろん一般的に人気のコミックも読まれているそうだが、普通の書店で平積みされているような小説やマンガではないジャンルの人気が高かったのも確かだ。
「コミックは一番わかりやすい電子書籍のコンテンツで、出版社の支援やキャンペーンもコミック中心でした。今後は読書を楽しむ、文学作品にも力を入れていきたい。これによって電子書籍を大衆化できるのではないか、と考えています」(髙瀬氏)
たとえばあまり繰り返し読み返すことが少ない新書や実用書は、書店でのPRの優先順位も低かったが、電子書籍の方が取り扱いが増えるのではないか、と指摘されているそうだ。また有名作家の新作が話題になっているタイミングで、これまでその作家の過去の作品を読んだことがない若者が、デジタルコンテンツで触れるチャンスがあれば、新作の販売にも貢献できるのではないかと期待を寄せる。
冒頭でご紹介した若者の紙メディア離れについて、髙瀬氏は「メディアにこだわらず情報が取れればいい、と言う世代が増えてきている」と指摘する。だったら、読書をする人をいかに増やすか、という取り組みをしていけばよい、というのがEZブックの答えだという。モノを買うのに敷居が高いのなら、情報提供の手段を考えながら、その敷居を下げて段階的に入ってきてもらえばいいんじゃないか。そんな手段を模索中だ。
「紙媒体には書店の在庫などの課題もあって、売れる見込みがないモノはなかなか販売が難しい。デジタル化することで在庫や営業のリスクが下がると考えます。ただ、業界構造を変えるつもりはありません。ルールはお任せしながら、コンテンツあってのプラットホームを育てていこうと考えています」(髙瀬氏)
biblioとEZブックは本を読む端末としてのケータイをプロダクトとして進化させた。すぐにとは言わないが、数年後「ケータイを読む」スタイルが一般的になってくるのではないだろうか。1人1つのディスプレイを持っている時代はすでに到来している。その中で皆が文学や新書を楽しんでいても決して違和感はないはずだ。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。
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