初のモバイル専用CPU「Lion」と「Sable」
ここまでのラインナップは、基本的にはデスクトップ用のCPUの中から省電力製品を選別して製品化する形であったが、この後にはモバイル専用プロセッサーが登場する。それが2008年6月に登場したデュアルコアの「Lion」(Turion X2)と、シングルコアの「Sable」(Sempron)である。かつては「Griffin」と呼ばれていたプロセッサーだが、どうもこのGriffinは、LionとSableをあわせたコード名だったようだ。
まずLionだが、こちらはモバイル専用といっても、コアのアーキテクチャーそのものはK8コアと同じである。ただし省電力の工夫がされており、内蔵メモリーコントローラーやHyperTransportリンクの省電力化、あるいは「Unganged Mode」※1を搭載するなど、モバイル向けの機能が搭載されたCPUとなっている。
※1 2チャンネルのメモリーバスを、独立した2つの64bitメモリーとして動作させるモード。後にデスクトップの「Barcelona」でもサポートされた。
同時に、Sempronブランド向けに投入されたSableは、Lionから1コアを無効化した形で実装されている。またLion/Sable共に、DDR2メモリーに対応した結果、従来のSocket S1とは互換性がない新パッケージ「Socket S1G2」に切り替わっている。
なおTurion系列では、2次キャッシュが1MB×2で動作周波数が高いものを「Turion X2 Ultra」、512KB×2でやや動作周波数が低いものを「Turion X2」としているが、差異はそこだけである。また512KB×2のTurion X2のうち、比較的低消費電力で動作するものが「Athlon X2 Dual-Core for Notebooks」として、やはり省スペースデスクトップ市場向けにリリースされている。
Atom対抗に急遽投入された「Athlon Neo」
このラインナップに急遽追加されたのが、2009年1月にリリースされた「Athlon Neo」である。インテルのAtomを使ったネットブック/ネットトップのマーケットが予想以上の盛り上がりを見せており、このマーケットに投入すべき製品がどうしても必要になったからだ。
ずいぶん前のロードマップでは、こうしたマーケットには「Bobcat」と呼ばれる、Atomと同コンセプトのプロセッサーを投入する予定だったが、こちらは開発が遅れに遅れており到底間に合わない。そこで急遽、Lionから1コアを削減し、かつ動作周波数を1.6GHzまで落とすことでTDPを15Wに下げた「Huron」コアをAthlon Neoとして投入する。
この製品がいかに間に合わせだったかというと、組み合わせるはずのチップセット「AMD 700」シリーズが間に合わず、「AMD 690G」のモバイル用である「AMD M690G」を用意したあたりからも見て取れる。15WというTDPは、Atom N270の2.5Wに比べると絶望的に大きい。またインテルがネットブック/ネットトップ向けに用意したIntel 945GCチップセットは5.5Wの消費電力である。合計で8Wで済むのに対し、M960Gは単体でも8W程度で、合計で15Wほど多めになっている。
Huronコアがなぜこんなに消費電力が多いかと言うと、基本的にはSableと同じで、Lionを1コア無効にしただけだからだ。物理的に1コアまで削れば、おそらく消費電力は10Wを切る辺りまで削減できたのだろうが(Atom並みの4Wまでは難しいだろう)、AMDの製造能力ではそこまで準備するのは無理だったと思われる。そのため、2009年6月に投入された2コア版のAthlon Neo「Conesus」は、動作周波数を下げていないのに消費電力はわずかに3Wアップの18Wで収まっている。デュアルコアのAtom 330の消費電力が、シングルコアのAtom 230の倍にあたる8Wまで増えたことと対照的だ。
要するにHuronもConesusも、リーク電流などスタティックな消費電力は(ダイが同じである以上)まったく変わらず、純粋に1コア分の動作時消費電力が増えたということになる。ただし今度はHuron投入から多少時間があったために、組み合わせるチップセットをより省電力化が進んだ「M780G」に切り替えることで、増えた3Wの分をうまく吸収しており、トータルとしての消費電力はほとんど変わらない。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ