Athlon II X3/X4はどうやって作るのか?
さて、問題はこの先だ。今年のCOMPUTEX TAIPEI 2009で発表された製品に、「Athlon II X2」がある(関連記事)。「Regor」(リーガー)というコード名を持つこのAthlon II X2は、基本的なアーキテクチャーはDenebと同様だが、以下の点が異なる。
- 共有3次キャッシュはなし。その代わり2次キャッシュを1MBに増量
- ダイ上に搭載されるのは2コアのみ
ダイサイズなどはまだ公開されていないが、日本での記者説明会で、このAthlon II X2の半導体ウェハーが公開されており、またAMD自身もダイをFlickrで公開している。これを見る限り、確かにデュアルコアCPU専用のダイとなっていることがはっきり判る。
RegorコアはKumaコアに代わり、新しいデュアルコアCPUとして投入されたもので、おそらく従来のAthlon X2は(Kumaコアを含めて)フェードアウトしてゆくと思われる。また、このRegorからさらに1コア削減したものが「Sargas」コアとして、8月か9月のタイミングでSempron向けに投入される予定である(2次キャッシュも512KBに削減される説もあるが、現時点でははっきりしない)。
これ以外に「Athlon II X3/X4」というコアがやはり予定されている。Athlon II X4は「Propus」、Athlon II X3は「Rana」というコード名が知られている。当初はこれらも6月のCOMPUTEXのタイミングで発表される予定だったのが、9月頃に延期となってしまった。
発表の延期はともかく、問題なのは「このPropus/Ranaをどうやって作るのか?」という点である。従来の話では、「Phenom IIは3次キャッシュあり、Athlon IIは3次キャッシュなし(2次キャッシュを1MBに増量)」という構成でそれぞれ4コアのダイを作り、ここからX4/X3/X2を順次製造するという話だった。しかし、Athlon II X2用に2コアのダイを新規に作ったことで、この話は変わったことが推察される。そうなると、以下の2種類の方法が考えられる。
- Phenom IIのダイ(Deneb/Heka)の3次キャッシュを無効にして製品化する
- Athlon II X4専用のダイ(Denebから3次キャッシュを取り除いたダイ)を“新規に製造”してPropus。Propusから1ダイを無効にしたものをRanaにする
前者であれば、すでに出荷されているダイをそのまま流用できるので、逆に9月まで出荷を遅らせる意味はあまりないと考えられる。後者の説を推したいところだ(もちろん、現在AMDがCPU製造を委託している製造会社、GLOBALFOUNDRIES社の45nm SOIの生産能力では、Propus/Ranaまで作る余地がない可能性もある)。
ちなみに、Athlon II X3/X4共にTDPは45Wとかなり低く、その分動作周波数も、2.2~2.3GHzと低めに抑えられている。モデルナンバーも、当初投入はX4が600e/605e、X3は400e/405eと、いずれも省電力モデルとなっている。そのためメインストリームデスクトップ向けというよりは、バリューデスクトップや省スペース/組み込み向けとなるのではないかと想像される。
★
最後に今後の展望である。AMDのCPUが32nm製造プロセスに移行するのは2010年第3四半期、量産出荷は2010年の第3四半期末~第4四半期といったあたりになると予測されている。現時点では使うシリコンウェハーが、従来と同じSOIかバルクシリコン(単結晶シリコン)かは明言されていない。AMDの場合、プロセッサー原価が跳ね上がる理由のひとつにSOIシリコンを使っていることがあるので、32nmでバルクシリコンに戻る可能性もある。
逆に言えば、あと1年余りは現在の45nmプロセスベースの製品が出荷されることになる。したがって、多少ラインナップが増えたり、先述のとおりPhenom II X4などでやや高速な製品が投入される可能性はあるが、基本的には大きな変化はないと予測される。
可能性で言うなら、サーバー向けの6コアCPUである「Istanbur」コアを使った、「Phenom II X6」あるいは「Phenom II FX」といったエンスージャスト向け製品が投入される可能性は皆無ではないものの、現実問題としては考えにくい。実際Phenomについても、当初はPhenom FX的な製品計画はあったらしいが、途中で立ち消えになってしまっている。
ちなみに32nm世代でも、内部アーキテクチャーは現在のPhenom II同様のK10ベースのものとなる。これに続く「Bulldozer」コア(世代的にはK11相当)がリリースされるのは2011年以降となる。その意味では、AMDはもう2~3年の間は、引き続きK10アーキテクチャーで戦ってゆくことになるだろう。
今回のまとめ
・Barcelona=K10世代のクアッドコアCPUのアーキテクチャー、Agena=Barcelonaベースの65nm版「Phenom X4」、Deneb=Barcelonaベースの45nm版「Phenom II X4」。
・Toliman=Agenaの3コア版「Phenom X3」(1コア無効化)、Heka=Denebの3コア版「Phenom II X3」
・Kuma=Agenaの2コア版「Athlon X2」(2コア無効化)、Regor=Denebの2コア+2次キャッシュ増量/3次キャッシュ削除版「Athlon II X2」
・PhenomはK8に大きな改良を加えて登場したが、初期には発熱量の多さとエラッタで評価を落とし、苦戦を強いられた。
・45nm世代のDenebにより、消費電力削減と動作周波数向上を実現して、問題は大きく解決された。
・Athlon IIの4コア版(X4)と3コア版(X3)も計画。しかしDenebを改良するのか、Regorを改良するのか不明。
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