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WWDC 2009 総力レポート 第10回

林信行に聞く「Mac&iPhoneの未来予想図」

2009年06月12日 16時00分更新

文● 林信行 聞き手●広田稔/ASCII.jp編集部

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大手コンテンツホルダーが参入しやすくなる

 iPhoneについて、私がこのWWDC 2009を見て今後、重要になると感じたポイントが2つあります。

 ひとつ目は、「アプリ内課金」(In-App Purchase)の登場によるApp Storeビジネスの変化です。

 iPhoneアプリにおいて、今年の前半くらいまでは、例えば、振ると何か反応があるような、「一発芸系」的なものが多くありました。iPhoneは、まだまだ市場を拡大している途中なので、今後も新規ユーザーに広がっていく過程では、そうしたアプリも人気を集めていくでしょう。

 一方でアメリカ市場では、春くらいからアプリの人気に変化が現れ始めていました。ズラーっとジョークが並んでいるテキスト主体の電子書籍や、まめ知識を集めたアプリが、ランキングの上位に食い込むようになってきたのです。要するに、アプリのコードそのものよりも、人々の関心がコンテンツの側に動き始めたのではないかと思います。米アマゾンがiPhone用のKindleアプリを提供し始めたのも、ちょうどこの頃でした。

 iPhone OS 3.0でアプリ内課金をサポートすれば、この流れがさらに進むでしょう。例えば、ゲームで最初の10面をクリアした人に続きの10面を売ったり、キャラクターやアイテム、ゲーム内のポイントを販売したり、日本のケータイアプリのように月額課金をすることが可能になります。

既存のアプリでは、コナミデジタルエンタテインメントの「METAL GEAR SOLID TOUCH」が先行版で12ステージを出し、後ほど8ステージをアップデートするという形をとった。ただし、この場合のアップデートは無料だった (C) 2009 Konami Digital Entertainment

 こうしたコンテンツ主体のビジネス展開は、これまで多かったiPhoneアプリで一攫千金を狙う中小規模の開発者よりも、むしろ大規模な企業に有利に働くでしょう。今後、iPhone 3.0以降では、これまで以上に大手コンテンツホルダーの参入が激しくなると見ています。

 また、電子書籍の分野もますます活気づいてくるのではないでしょうか。実際、今回も会場周辺で、日本で電子書籍系ソリューションを展開している複数の企業の人に会いました。

 こうした電子書籍ソリューションの企業には、ぜひ、日本市場だけに目を向けず、作ったスタンダードを世界に広げる努力をしてほしいです。

 そうでないと、結局はまた別の「ガラパゴス化現象」を生み出すだけに終わってしまいます。しばらくの間はよくても、長い間、競争を続けるうちに、いずれ世界スタンダード側に巻き込まれ、人類を遠回りさせることになるからです。


「HTML5」という大木の苗

 もうひとつ重要だと思うのが「HTML5」のニュースです。

新しい「Safari 4」

 今回の発表では、Snow LeopardやiPhone OS 3.0ばかりに目が行きがちですが、実は両OSに付属のウェブブラウザーである「Safari」も大きく進化しました。HTML5に対応したり、JavaScriptの実行がはるかに速く実行できるようになっています。

 ……と、サラっと流すとこれまでにもあった改善くらいにしか思えないかもしれません。でも、HTML5は違います。

 これは、WWDCの基調講演と、それに先駆けて開催されたGoogle I/Oの基調講演の両方を見た人、または、まもなくリリースされる「Firefox 3.5」(Shiretoko)を知っている人なら、今年の後半移行、ウェブブラウザーが持つ意味や役割がまったく変わってしまうということが実感できているはずです。

 NDA(機密保持契約)のかかったセッションにも出席しているため、詳しいことまでは言えませんが、気が付いたら、iPhoneの開発言語に「Objective-C」だけでなく、HTML5も加わっていたというくらいの大きな変化です。

 ウェブアプリの場合、App Storeでは売れませんが、iPhoneにもウェブアプリをアプリ化するフレームワークのようなものがあります。ウェブアプリとして無料展開しておいても、4000万台プラットフォームのiPhoneであれば、それなりの収益が上げられるでしょう。アプリを有料化して売るよりも、無料で配った方が利益が上がったという例もあります(関連リンク

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