ルーティング情報の集約
レイヤ3スイッチのルーティングテーブル(経路表)は社内ネットワーク内にあるサブネット数に比例して大きくなるので、サブネットが1000を超える大規模なネットワークでは、ルーティング処理の負荷が高くなる。そこで、ルーティング情報の集約により負荷を下げる工夫が必要になる。たとえば、東京本社と千葉工場にそれぞれ16個のサブネットがある場合、東京本社には10.0.0.0/24~10.0.15.0/24の16個を割り当て、千葉工場には10.0.32.0/24~10.0.47.0/24の16個を割り当てる。こうすれば、東京本社の16個のサブネットは、東京本社の外部からは「10.0.0.0/20」という1つのネットワークとして扱うことができる。同様に、千葉工場は外部から見て「10.0.32.0/20」という1つのネットワークとして扱うことが可能になる。
ルーティング情報の集約は、拠点間のWANが低速な場合にも効果が大きい。一般に、回線が低速な場合には、動的ルーティングを行なわず、静的ルーティングを行なう。そのため、管理者がルータに設定する経路情報は少ないほうがよい。仮に、千葉工場側のネットワークアドレスを、10.0.30.0/24~10.0.45.0/24の16個にした場合を考えてみよう。この割り当て規則は人間が見て整理しやすい10進法に沿っているが、ルーティング情報は1つに集約できない。ルーティング情報を集約するには、ネットワークアドレスの割り当て規則を2進法に沿って考える必要がある。
DHCPサーバの導入
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)とは、PCが自動的にIPアドレスなどの設定情報をサーバから取得して自分の通信環境の設定を行なう、クライアント/サーバ型の仕組みである。設定情報を配布する側をDHCPサーバ、受け取る側をDHCPクライアントと呼ぶ。
DHCPを使えば、IPアドレスのほかサブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバ、WINSサーバ、ドメイン名などIPネットワークを利用するための数多くのパラメータを、サーバからクライアントに割り当てることができる。ネットワークの構成が変更され、ネットワーク内のすべてのPCでこれら設定情報の変更が必要になった場合を考えてみよう。PCが数台程度ならまだしも、数十台もあったらどうだろうか。
DHCPを導入すれば、個々のPCにIPアドレスなどの情報を設定する必要がなくなり、前述の「IPアドレスの計画」で決定した通り、クライアントPCのアドレスレンジをDHCPサーバに設定すればよい。ただし、サーバやプリンタなどの共有資源や、ルータなどのネットワーク機器は、アドレスが変わるといろいろと不都合なことが多いので、IPアドレスを固定的に設定する。
DHCPを導入する場合、DHCPサーバの可用性や信頼性は非常に重要になる。サービスが停止すると、クライアントPCにIPアドレスなどが正しく設定されず、通信障害が生じるからだ。そのため、DHCPサーバにはバックアップを必ず用意すべきだ。拠点が1つであれば、バックボーンネットワークにメインとバックアップの2台を設置する。拠点が複数あれば、本社や工場などの大規模拠点ごとにDHCPサーバを設置し、近隣の中小規模拠点も含めて通常はそのDHCPサーバを利用するよう設定し、(1)隣接するDHCPサーバが相互にバックアップとして機能する構成、(2)データセンターに1台のバックアップ用DHCPサーバを設置する構成、のいずれかを取ることが多い。また、こういった冗長化構成を取る場合には、フェイルオーバー(障害時の自動引継ぎ)機能を持つ専用のアプライアンスサーバを用いると導入や運用が簡単だ。
DHCPリレーエージェント
DHCPクライアントからDHCPサーバに向かう通信には、ブロードキャストパケットが多用される。このため、DHCPサーバとDHCPクライアントが異なるサブネットに設置されてしまった場合(経路の中間にレイヤ3スイッチがある場合)、DHCPが機能しなくなる。これを解決するのが、レイヤ3スイッチのDHCPリレーエージェント機能である。
DHCPリレーエージェントを有効にしたレイヤ3スイッチは、ブロードキャストのDHCPメッセージを受信すると、メッセージの宛先アドレスをDHCPサーバのIPアドレスに、送信元アドレスを自分のIPアドレスに書き換えてDHCPサーバに中継(リレー)する。DHCPサーバからの応答はレイヤ3スイッチに送られてくるので、それを受信したらDHCPクライアントへ中継する。これにより、クライアントとサーバの間でブロードキャストが伝搬しないネットワーク構成であっても、DHCPが正しく機能するようになる(図6)。
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