どさくさまぎれに入った地デジ対応テレビ
エコポイントの中身にも疑問が多い。エアコンと冷蔵庫は消費電力が大きいからまだわかるとして、地デジ対応テレビが入っているのはどういうわけか。地デジ対応テレビは46インチ以上で36000ポイントと、エアコンや冷蔵庫の3倍近く、価格比でみると15%以上の大幅な割引になる。
液晶やプラズマのテレビが、ブラウン管に比べて消費電力が小さいとは限らない。たとえば、わが家のブラウン管テレビ(21インチ)の消費電力は130Wだが、これを46インチの液晶テレビに買い換えると、もっともエコポイントの高い商品でも、消費電力は268Wと倍増する。要するにこの制度はエコの名のもとに苦境にある家電産業を救済し、地デジに補助金をばらまく制度なのだ。
もともと「景気対策」と「エネルギー節約」は両立しない。景気が回復するには、人々の消費が活発になってエネルギー消費が増えなければならないが、それはエコにはならない。かつてケインズがいったように、景気対策とは無駄を作り出し、エネルギーを浪費することによって有効需要を高めるものなのである。
さらに悪いことに、こうしたポイントの付与を行なうのは、環境省や経済産業省だ。ポイントの認定や交換商品をめぐって所管官庁には陳情が殺到し、門前市をなしているという。不況対策に名を借りて役所の権限を拡大し、裁量的な介入が広がっている。それは一時的には企業を救済するようにみえるが、長期的には企業が役所のほうをみて仕事をするようになり、日本の家電産業は衰退するだろう。
私は地球温暖化という問題に大した意味があるとは思わないが、エネルギーを節約することは重要だ。そのために必要なのは、20世紀を通じて続いてきた大量生産・大量消費型のライフスタイルを見直すことである。それは経済成長を低下させ、景気対策にはならないかもしれない。しかし政府が本気で子孫のことを考えているなら、今のような浪費型社会に歯止めをかけることこそ本質的な環境対策である。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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