高いと見るか、不十分と見るか、配信のハイビジョン画質
── アクトビラ ビデオ・フルで配信されている動画はMPEG-4 AVC形式で、12Mbps程度の接続環境が必要とうたわれていますね。
一条 品質で言うと、BDには一歩譲る印象でしょうか。BDと同じビットレートで配信するには、バックボーンの整備が難しいのが理由だと想像しますが。
鳥居 厳密な比較ではないですが、アクトビラ ビデオ・フルの画質は地デジぐらいのレベルはある印象です。MPEG-4 AVCなら8Mbps程度でも、MPEG-2の17Mbpsと比べて遜色ないのでは。
── (配信用の動画は)オーサリング時に、色合いなどもBD用と変えていると聞いたことがあります。BDは色温度を低めにして、アクトビラではテレビ向きにより色温度を高めにしている、と。
鳥居 それは正しいアプローチですね。音楽の世界では、1曲何百円の圧縮音源をネット配信で普及させ、クオリティーにもこだわりたい人はCDやリニアPCMの音源を買うといったスタイルが主流になりつつあります。同じように映像も、コレクションしたり、専用のプレーヤーで高画質で見たい人はBDを選び、レンタル感覚で気軽に見る人は配信を使うといった感じの住み分けが進むかもしれません。
個人的に興味があるのは、レンタルビデオ店のDVD棚が、BD棚に置き変わっていくかどうかです。ハイビジョンに関しては、まず地デジがきちんと普及するかどうかという問題があるので、2011年以降の話にはなると思うのですが……。配信でもフルHDが実現されている現状を考えると、それで済ましてしまう人も出てきそうです。
一条 これもユーザーが何を求めるかだと思いますね。
鳥居 利便性かクオリティーか、という問題になりますね。ネットワークと動画コンテンツという視点では、もうひとつDLNAとDTCP-IPという解決策もあります。僕はアクトビラよりもDLNAのほうに関心がある。とはいえ、まだまだ不十分に感じている部分があります。例えば、プレイステーション3には、DLNAのクライアント機能が搭載されているが、なぜか地デジの録画データは送れない。これでは、DLNAのクライアントがあるとは言えないと思います。やはりDTCP-IPのほうも対応してもらえないと。いろいろと理由はあるんでしょうが。
一条 対応しているDLNAのバージョンの違いですね。DTCP-IPのデータは、今のところほとんどのHDDに保存できません。例えば、NASにストレージしておいて、クライアントで見るというソリューションが、もっともっと普及してほしいと思います。これは日本独自の問題とも言えるのですが。
鳥居 とはいえ、「時間の経過とともに解決していく問題」とも感じています。東芝のREGZAは外付けのHDDに録画データを保存できますが、買い換えて別のテレビにつなぐとフォーマットされてしまうという問題があります。著作権保護に業界としてどう取り組んでいくかが課題です。特にHDDは物理的に寿命のある媒体だから、バックアップという問題がつきまとう。HDDに動画データを保存して、ジュークボックス的に使えれば理想的なのですが。
一条 音楽ではそれができていて快適なんですけどね。パソコンの地デジ録画機能についても「録画してからどうするか」という問題があります。ダビング10だって導入されたのはつい最近です。しかしながら、DTCP-IP対応のHDDが登場するなど、徐々に進化はしている。みんなが幸せになれるときもいずれ来るかもしれない。
鳥居 誤解して欲しくないのですが、権利者が横暴という気は毛頭ありません。しかし、ジレンマがあるなと。こういうことは実際やってみて気付くことなので、普及した後に「できないのなぜ?」と普通の人が思うようになる。そこで変化が生じるんじゃないかと。