著者・編集者・出版社・流通の関係が問われている
申し立てサイトでは、「権利者が書籍に対して、どのような流通を望むか」という複数の選択肢が用意されている。福井氏が指摘するのは、これらの意思決定が必要であると同時に「では、果たして書籍に対する権利を持つのは誰なのか?」という問いが突きつけられている、という点だ。
出版に関する契約が綿密に行なわれる米国に比べ、日本の場合契約書を結ぶケースはまだまだ少なく、誰が出版物に対するどんな権利(この場合は、ネットへの配信権)を保持しているのかが曖昧な場合がほとんどだ。福井氏は「米国内での扱いが問われている現時点では、その影響はまだ小さいが、Googleがこのビジネスを成功させた場合、日本でも同様の展開を推し進めてくる可能性は十分に高い。その際、この点はより大きくクローズアップされることになる」と予見している。
第一ラウンドは完敗。次にどう行動するのか?
Googleブック検索に関するこれらの権利者の所在や意思決定結果は、「版権レジストリ」という第三者機関が管理し、Google以外のサービス運営者もその情報を利用できるようになる。例えると、電子書籍の世界でのJASRAC的な存在が米国に生まれたともいえる。
福井氏はコピーが容易なデジタル財を、権利者の保護を図りながら流通させるには技術的設計だけでは不十分であり、たとえ複製可能な状態で個人の手元にデータが残ったとしても、好き勝手には流通させることはできない権利(知的財産権)の設計が重要だと語る。その権利情報と制度運営が、版権レジストリという一団体に集約されることは、いわば第一ラウンドで、(日本の著作権者は)完敗したとも言える状況だと指摘する。
会場には、クリエイティブ・コモンズにも詳しく、フェアユースの導入にも積極的な立場を取るジャーナリストの津田大介氏もおり、「音楽では原盤権に吸収されてしまうことも多いオンライン配信権を、書籍の著者にも行使できる可能性を与えたブック検索の仕組みは、評価できる部分も多い。出版社が、出版と編集などのすべての機能を備えている現状から、今後、著作物に関わる権利は細分化されていくのではないか」とポジティブな意見も述べた。
福井氏は、Googleが突きつけたデジタル流通時代の幕開けを迎え、この後に重要なアクションとして、
- 書籍に関与する権利者(著者と出版社など)が本音で話し合い、契約関係を明確にしていくことが求められる時代となった
- 版権レジストリに先手を取られた形ではあるが、今後、それらの権利関係を効率的に管理し、流通を促進できる権利団体の役割の重要性は、より増す
- 現場では個々の契約が優先する。しかし、そこで拾いきれないものについては法律でのフォローが必要。「フェアユース」は過大な期待と恐怖が混在している状況だが、リスクを取るための根拠としての役割は大きく、推進すべきと考える
といった3点を挙げて、トークセッションを締めくくった。