UTAUに革命を起こすか? 「Mac音ナナ」の登場
今、UTAUの音源として注目なのが「Mac音ナナ」(まくねなな)だ。これは毎日コミュニケーションズの雑誌「Mac Fan」の企画から生まれた、女優・声優の池澤春菜を起用した音声素材集。内容としては、Propellerheadのシーケンサー「Reason 4」の音素材と、アップル社の音楽制作ソフトウェア「GarageBand」向けのAIFFファイルが用意されている。
AIFFファイルは音素別のファイルになっているので、WAVに変換すればUTAUの音源として使える。AIFFのみの「Mac音ナナ Petit」は980円と安い。
UTAUの作者である飴屋Pはさっそく自らMac音ナナを使い、まず「汚点P」が原曲を担当した「【Mac音ナナ】高血圧ガール【まさかの共演】」のカバーを投稿した。
お詫びと訂正:掲載当初、飴屋Pの投稿作を「耳のあるロボットの唄(カバー)」としていましたが、同曲はテンプラ氏の作でした。
その後、第2弾として26日に「アゴアニキP」の人気曲「ダブルラリアット」のカバーが投稿された(下)。その今までにないリアルさに「UTAUもここまで来たか」と感じ入ってしまった。
そもそもUTAUは「人力Vocaloid支援ツール」として出発している。人力Vocaloidというのは、ドラマやアニメの台詞を切り貼りし、あたかも声の主が歌っているかのように聞かせる、とてつもなくハードな手法のことだ。作るのが大変な上に、著作権的にも問題なしとは言えず、作者の努力は報われにくい。
だが「この声であの曲を歌わせたら一体どうなるのか?」 その単純な好奇心を満たすために作られた動画は、それゆえ見れば素直に感動してしまうのだ。
人力Vocaloid的な手法で作られた動画は、実は初音ミクの登場以前からニコ動に存在していた。そうした素地があったことと、初音ミクのヒットは無縁ではなかったはずだ。
なぜならUTAUのようなユーザー発の歌声合成ツールを成立させた原動力は、まさに「この声であの曲を歌わせたら一体どうなるのか?」から来ているのだから。
UTAUはそれ自身が参加型のプラットフォームであるのも面白い。声に自信はあるが歌はいまいち。歌は上手いが人前では恥ずかしい。そもそも曲を作るのが無理……ならばUTAU用の音源を公開して、このシーンに参加するという手がある。
発音を録るだけなら、歌の上手い下手も、音楽的才能の有無も関係ない。上手く録音するには根気もいるが、あなたの音源で誰かが曲を作り、あなたを「歌わせてくれる」可能性がある。そうしたコラボが成立するのもVOCALOIDにない魅力なのではないだろうか。
四本 淑三(よつもと としみ)
1963年大分県生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科講師。高校時代に音楽雑誌へ投稿を始めたのを契機に各種のコンテンツ制作や執筆作業に関わる。去年は動画サイトに上げたKORG DS-10の動画がきっかけで、KORG DS-10の公式イベント「KORG DS-10 EXPO 2008 in TOKYO」に参加。その模様はライブ盤として近日リリース予定。
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