スイッチで階層化される企業のネットワーク
企業が利用するビルや工場の構内に敷設されるネットワークをLAN(Local Area Network)と呼ぶ。LANは企業の情報システム部などが構築を行なうもので、クライアントPCやサーバなどのコンピュータはもちろん、プリンタやストレージなどが接続される。これらの端末のケーブルを束ねるのが「スイッチ」や「ハブ」と呼ばれる集線装置である。
ある程度の規模以上になると、ネットワークはスイッチによって階層化される(下図)。通常は、エンドユーザーの端末を接続する「エッジスイッチ」、エッジスイッチを集線する「フロアスイッチ」、そしてフロアスイッチやサーバやストレージを集線する「コアスイッチ」の3階層のスイッチによって分けられるのが一般的だ。日本の会社ではちょうどシマにあたる部分がエッジで、各階で集線されることになる。そして、上位のスイッチへの接続を「アップリンク」と呼び、ちょうど川の上流から下流のようにコアに向かって帯域も太くなっていく。
本連載では、こうした企業ネットワークを紹介していきたい。
LANでの通信にはEthernetが標準的に用いられている。Ethernetにはいくつか規格があるが、一般的には100メートルの通信を実現する銅線の規格を用いるのが一般的だ。各端末やサーバはEthernetを用いた同一のネットワークに参加させれば、直接通信できる。こうしたLANの基本となるEthernetやケーブリング(配線)、スイッチやクライアントPCに関しては、第2回で解説する。
実際にネットワーク経由でアプリケーションを利用する場合は、IPやルーティングの技術が必要になる。IPはIPアドレスを元に異なるネットワーク間で通信するためのパケット交換技術のプロトコルで、ルーティングはそのIPで用いられる経路制御を表わす。通常、企業ではLANを適切な規模のIPネットワーク(サブネット)に分割する。実際のネットワークの分割やルーティングなどを行なうのが、レイヤ3スイッチ(以下L3スイッチ)やルータといった機器になる。こうしたサブネット分割やルーティング、L3スイッチの役割については、第4回で学ぶ。
また、個人ユーザーが利用するネットワークと異なり、企業では信頼性が重要になる。ここでいう信頼性とは、ネットワークがつねに利用できる状態で正常に動作する「可用性」、そして障害時にいち早く元の状態に復旧する「耐障害性」が高いことを意味する。これを実現するため、企業向けのネットワーク機器などではさまざまな冗長化機能が設けられているのだ。ケーブルの断線や機器や部品の故障、あるいは災害、電力設備の異常など、トラブルの種は必ず存在する。障害に対抗できる強いネットワークを作るための技術は、第5回で紹介していこう。
最後は、インターネットやWANの構築についてである。社内LANのみで事足りていた時代ははるか昔であり、今や自社の拠点や他の企業などとネットワークを介して相互接続するのは当たり前になっている。また、メールやWebアプリケーションの有効性から、企業のインターネットの導入率も非常に高い割合だという。第6回では、企業にとってのWANとインターネット導入をおさらいしておこう。
ワイヤレスやアウトソーシングの隆盛変わるネットワーク
さて、解説に入る前に、冒頭の要件定義にもつながる、昨今のネットワーク構築におけるトレンドを整理しておく。まず、1990年代と現在とではネットワークとアプリケーションが大きく変わっている(図2・3)。
1990年当時、端末はほぼデスクトップPCが主流で、オフィスに据え置かれたPCを有線LANで接続するのが一般的であった。当時は社員1人あたりに1台のPCを用意する「1人1台」などという表現がIT化の指標としてもてはやされ、Ethernet機器の低価格化により、LANの普及も一気に進んだ。また、サーバの設置場所が社内のサーバルームであったのも、大きな特徴だ。当時は社内の一角にある鍵付の部屋に、ボックス型のサーバがまとめて設置されるというイメージであった。
利用されたアプリケーションは、おもにクライアント/サーバ型の業務アプリケーションやファイル・プリンタ共有などだ。そして、インターネットの普及とともに電子メールがコミュニケーションツールとして台頭し、WebブラウザからアクセスするWebアプリケーションも広まった。この時期のネットワークはまず安価に構築でき、簡単につながることが重視された。
しかし、ブロードバンド回線が普及した、2000年以降企業ネットワークも大きく様変わりしつつある。まず一番大きいのは、モバイルPCと無線LANの台頭だ。省電力プロセッサの普及により、バッテリでの駆動時間が飛躍的に向上し、特に外回りの営業などでモバイルPCが用いられるようになった。そして、高速な通信が可能な無線LANもモバイルPCとともに、企業に導入されることが増えた。
また、アウトソーシングの浸透は、企業システムを大きく変えつつある。たとえば、従来サーバルームにあった各種のサーバは、今や外部のデータセンターに設置されるようになった。当初は、Webやメールなどの公開サーバがメインだったが、今では業務アプリケーションやデータベースなどのサーバもデータセンターで運用されることが多い。
アプリケーションという観点では、基幹系のアプリケーションがWeb対応するようになったほか、IP電話やIMなどマルチメディアを用いたコミュニケーションツールが導入されるようになった。さらにWebアプリケーションを月額料金で利用するSaaS(Software as a Service)なども増え、サーバやストレージを自前で持たないという選択肢すら見えてきた。
結果として、今日では業務のネットワークへの依存度はきわめて高く、パフォーマンスやコストよりも、通信品質やセキュリティ、そして信頼性などが重視されるようになった。
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こうした最新トレンドを踏まえつつ、次回からからさっそくネットワーク構築を基礎から学んでいこう。
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