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野鳥を撮るのに最適なレンズはどっち? キヤノン×シグマ 【前編】

2009年04月20日 18時00分更新

文● 斉藤博貴

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EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM――
抜群の操作性で予想外のシャッターチャンスにも強い

シジュウカラ。留鳥。どこにでもたくさんいる。しかし、神経質な個体が多いのでなかなか近寄ってきてくれない。また、木の枝に止まっても動きを止めてくれないので、とても撮影し辛い鳥である。絞りF8、シャッター速度1/250秒、撮影感度ISO500、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

EF100-400mm F4.5-5.6L IS USMの外観

 キヤノンが発売する「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」は、APS-C撮像素子を搭載したデジタル一眼に装着すると35mm判換算で640mmの画角で撮影できる超望遠ズームレンズ。「IS(Image Stabilizer)」と呼ばれる手ブレ補正機構搭載と今では珍しい直進式ズーム採用という特徴を持つ。
 最大径は92mmで長さは189mmと意外とコンパクトな作りだ。また重さも1380gとかなり抑えられているので、手ブレ補正機構と相まって機動性に優れたレンズに仕上がっている。リアフォーカスで設計されていることから、超音波モーターUSM(Ultrasonic Motor)のメリットを活かしてかなり高速かつ安定したAFを実現している。しかも、最短撮影距離は1.8mと被写体にかなり寄れるので鳥撮影にはピッタリのレンズだ。どんなに焦点距離が長くても、同時に最短撮影距離まで長くなるようでは鳥撮影に限れば使いづらいレンズとなってしまう。

 このレンズは操作音がとても静かだ。手ブレ補正機能のショックをほとんど感じない。筆者による体感速度では、クラストップの高速さだろう。さすがは実売価格20万以上のレンズという品位を感じずにはいられない。このあたりの素晴らしさはカタログのスペック表には出ていないので、レビューする人間が所感としてしっかりと伝えたい所でもある。

 直進式ズームのおかげで、フレーミングと画角調整を同時にできる。35mm判換算640mmmmという狭い画角のファインダーで小鳥を捕らえる場合、焦点距離をズームアウトして広角側で位置を特定してからズームアップして撮影する必要がある。回転式ズームではレンズのホールドを一時的に諦めてズームリングを回すしかないが、直進式ズームなら「ホールド」と「ズーム操作」の両立も可能だ。結果として撮影チャンスを逃さない「高速撮影」ができる。

 ガッチリとした重厚レンズボディのせいか、手にした瞬間は重く感じる。しか、実際は重さ1380gとシグマ製より260gも軽量なので、手に持って歩き始めるとこちらの方が快適だ。全長は189mmと70-200mmF2.8クラスと同程度に抑えられているのでカメラバッグへの収まりが良い。

レンズ左側面にはレンズロック、手ブレ補正モード選択の2つの操作系が集中する

レンズ上面にはシグマ製と同様に距離計も搭載される。上の方にある「SMOOTH-TIGHT」と描かれているリングを操作することで、ズーム時の抵抗の強弱を調整できる

 手ブレ補正モードレバーが、カメラバッグや洋服と接触しても干渉されづらい点も見逃せない。予期せぬシャッターチャンス時でもバッグから取り出したまま、確認作業なしで撮影に入れるほどに信頼性が高い。撮影中はこちらのレンズを買おうと考えていた。しかし、撮影後には驚くべき結果が待っていた。

 残念なことに「解像感」、「手ブレ」、「被写体ブレ」などの複合的な要因によって、写真を等倍で観賞すると描写がやや甘めなのだ。中型の鳥でならあまり問題にならないが、スズメくらいの小型の鳥では満足のいく写真が撮れなかった。
 1500万画素APS-C判撮像素子クラスで撮影した場合は、拡大率50~75%くらいで抑えた観賞をすれば問題ない。また、1000~1200万画素APS-C判撮像素子クラスで撮影すれば何の問題もないだろう(この基準でなら撮影満足度も相当に上昇する)。

 これらの結果を見ると、さすがに20世紀に発売されたレンズだな、と感じた。それから、持ち運び時に直進部がズリ落ちる心配を皆無にしてくれるレンズロック機構(シグマのレンズのようなモノ)が欲しくなったことも付け加えておく。

古いレンズのためやや描写は甘い
しかし反応速度はピカイチ!

 かなり古いレンズなので、今回テストした近接撮影時の画質はやや甘かった。細部を細かくチェックすると羽毛の描写同士が分離できていないのが分かる。拡大率100倍(等倍)で観賞すると、細部の描写が溶けているように見えると言った方が良いかも知れない。ただし、これはテレ端の近接撮影をしなければ問題ない。現在、後編にむけて比較作例を撮影中だが、一般的な被写体での撮影結果はほぼ互角という結果が出始めている。
 21世紀初頭におけるこのレンズの立場は、おそらく最高画質を求めるものではなく、あらゆる撮影状況に最速で対応できるマルチ・パーパス・レンズなのだろう。実際、予想外の被写体に出会って大急ぎで撮影する場合、シグマ製では間に合わないような切迫した状況でも、キヤノン製をカメラに装着していれば間に合った。  

キヤノンレンズのその他の作例

シジュウカラ。留鳥。絞りF8、シャッター速度1/500秒、撮影感度ISO400、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

ヤマガラ。留鳥。シジュウカラの仲間。シジュウカラの群に紛れ込んでいることもある。どちらかというと、シジュウカラよりも大らかで撮影しやすい鳥。絞りF8、シャッター速度1/1600秒、撮影感度ISO500、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

アオサギ。留鳥。野鳥での最大級の大きさを誇る。とても撮影しやすい鳥。絞りF8、シャッター速度1/2500秒、撮影感度ISO400、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

ジョウビタキ(メス)。背中が一番キレイなところ。正面からではなく、背中を入れて撮影したい。絞りF8、シャッター速度1/200秒、撮影感度ISO800、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

ヒドリガモ。渡り鳥。陸に上がっている時はあまり動かないので撮りやすい鳥。絞りF8、シャッター速度1/800秒、撮影感度ISO500、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景

不鮮明な画質になってしまった場合 

 手ブレ、被写体ブレ、レンズ性能などの要因で、シャープな描写で撮れなかった場合でも救済策はある。フォトショップなどの画像加工ソフトで解像度を75%程度に下げれば等倍観賞してもキリっとシマリのある描写になる。また、シャープに撮るのが困難な場合は最初から画素数を下げて撮れば、EXIFなどに加工の後が残らないので発表し易いかも知れない。なお、EOS50Dなど1500万画素クラスのAPS-Cデジタル一眼レフでなら、最大で50%くらいまでなら解像度を下げても問題はないと筆者は考えている。 

ジョウビタキ(メス)。絞りF8、シャッター速度1/250秒、撮影感度ISO800、手ブレ補正オン、AWB、ピクチャースタイル=風景。1010万画素相当まで縮小リサイズ+アンシャープマスク50%で処理を行なった

フォトショップのリサイズ機能で1010万画素相当まで縮小リサイズ

フォトショップのアンシャープマスク50%をかけて描写をシャープにする

いや、まだまだ実験は続きます!

 キヤノン純正の「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」とシグマ製の「APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM 」のどちらを買うか……。正直迷っているが、後者の方に傾きつつある。しかし、DPPによるレンズ収差の修正などの便利な機能を捨てる決心もできていない。
 次回は「手ブレ補正効果」「周辺光量落ち」「解像力」「発色傾向」など思いつく限りの比較テストを行なう予定だ。決断は、これらの結果を待ってからでも間に合うだろう。

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