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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第61回

ウェブは民主主義を救えるか

2009年04月01日 13時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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日本のウェブは匿名のゴミの山

 それに比べて、日本ではこういう政策論争がほとんど起こらない。その一つの原因は、新聞や雑誌の内容がほとんどウェブで公開されないことにある。多くの新聞サイトで記事のダイジェスト版しか掲載せず、特に外部執筆者のコラムはほとんどウェブには出ない。このため議論を読む読者が限られ、それがデジタル情報として流通することもない。

 さらに大きな原因は、新聞サイト以外のブログなどに、まともなエコノミストがほとんど執筆しないことだ。たとえばTopHatenerというブログの人気を解析しているサイトで、「経済」分野のブログを見てみると、上位50のブログの中に私以外に職業的な経済学者は数人しかいない。しかもほとんどが匿名だ。匿名の情報などというものには何の価値もない。

 このような日本のブログのレベルの低さは、テクノラティのランキングでもわかる。私のブログのリンク数は、日本では第7位だが、世界では3422位だ。言語別にみると日本語のブログの数が英語を上回っているが、その影響力は単純計算で3桁ぐらい違うのである。しかもこうした匿名ブログや掲示板の内容は、ほとんどが他のブログを引用して悪口を書くだけだ。

 日本ではブログで発言しても悪口を書かれるだけでメリットがないから、地位のある人は書かない。おかげで信号に対してノイズが圧倒的に多く、ブログが情報源として役に立たないので、まともなビジネスマンは読まない。おかげでまともな人は書かない……という悪循環に入って、日本のウェブ上の言論はゴミの山になってしまった。

 大手メディアだけが民主主義を担う時代は終わり、欧米ではウェブが既存のメディアに対抗する新しいメディアになりつつあるが、日本ではブログの数が増えるにつれてノイズが増え、質は低下する一方だ。こういう状況を嘆いていてもしょうがないので、4月1日から専門家の討論を行なう場として「アゴラ」というウェブサイトを開始した。日本の政治の現状にうんざりしている人は多いだろうが、匿名で悪口を書いても誰も読まない。日本でも自分の言論に責任をもって発言する国民が増えないと、政治は変わらない。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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