著作権議論の今後の展開は
──いい方向に変わったのはなぜでしょうか?
津田:ここ数年議論されていたテーマではあったんですが、小委員会が増えて議論が活発化したということと、著作権法そのものや文化庁のスタンス、権利者団体の主張に対する消費者の声が顕在化しやすくなったということも状況を動かしたのではないかと思います。
今年度は、僕が参加していた「私的録音録画小委員会」と「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」(保護利用小委)は、どちらもなくなってしまいました。
ふたつの委員会で議論がまとまらなかった「補償金制度を今後どうするか」「著作権の保護期間を死語50年から70年に延長するかどうか」というテーマは、積み残しの議題となっています。文化庁は新たに「基本問題小委員会」という委員会を作って、「大所高所から議論をする」そうです。
先日、その委員会に参加する委員が発表されました(関連リンク)。基本的には親部会である著作権分科会の委員が中心となって、苗村憲司さん(駒澤大学教授)と、中村伊知哉さん(慶應義塾大学教授)が追加されています。
明確な消費者側の委員は、河村真紀子さん(主婦連合会常任理事)だけですね。委員の中で補償金制度に批判的な立場なのは、河村さんと、野原佐和子さん(イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長)くらいですし、私的録音録画小委員会で補償金に反対していたJEITAの委員は外された。
保護期間延長問題に対しては、保護利用小委で延長に反対していた委員がすべて外されて、三田誠広さん(作家、社団法人日本文藝家協会副理事長)、里中満智子さん(マンガ家)、瀬尾太一さん(有限責任中間法人日本写真著作権協会常務理事)といった延長派だけが残っている。
文化庁的には著作権分科会のメンバーを中心に選出しただけと主張するかもしれませんが、何らかの意図が働いているのではと疑われても仕方がない、一方的な人選だと思います。この委員会は「著作権制度の根本的なあり方を議論する」というところ。消費者不在の中、権利者中心の著作権制度が作られていくのではという強い危惧を感じますね。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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