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Apple Store Ginza「Dream Classroom」

農業もクリエイティブ 宇川直宏かく語りき(後編)

2009年03月27日 14時30分更新

文● 広田稔/トレンド編集部 協力●谷分章優

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所有の時代は終わった、今は「共有」から始まる

── (学生からの質問コーナーで)先ほどまでのお話だと個人的な思い出とかが多かったようですけど……。

宇川 今日は珍しくそっちへ行こうかなと。違うのも実は持ってきてたんですけど。

── インタビューでは「仲間といろいろなことをして楽しかった」という話を読みますが、宇川さんにとって仲間や友達はどんな意味を持っていますか?

宇川 仲間・友達ですか。それって重要ですよね。お互い増幅しあえる──さっき「フィードバック」って言葉を出したんですけど、どちらが原点か判らないくらいフィードバックしあえてる関係てすごい重要だと思うんですよ。それって極点が2つないとできないんで。

 人間ってひとりで生きていけない生き物だと思うんですよ。この地球上に自分ひとりしかいなかったら、たぶん表現ってしないと。やっぱり誰かに見てもらいたいんだと思うんです。そのフレンドシップを築くためのツールとしてクリエイティブがあるんだと。

 自分のためにやる表現ってなかなかなくて、他者が存在しているからようやくクリエイティブになれるってのはあると思うんですよね。

野村 僕は自分のためだけだと手を抜いちゃうんで。やっぱ人に出すというときに、気合い入れなきゃなと。

宇川 クライアントワークも、クライアントとのコラボレーションじゃないですか。今日、そういう作品を持ってこなかった理由は、現代美術はクライアントがいないんで、個人の発想のもとに100%自我を露呈していい表現だと思うんです。グラフィックデザインはそうじゃなくて、世に機能しないといけないもの。機能美が求められますよね。

 そこって創作に大きな違いがあって、クライアントワークというのはやっぱりさっき言ったように「デザイン」なんですよ。機能がきちんと見出せないとダメ。でも、美術は機能なくてもいい。自我をそのまま露呈して、トラウマを形にしていい表現の一部だったりするんですよ。

 そこで先ほどの質問に戻ると、例えば、自分が抱えている情報や体験を共有するというのは、とても重要だと思うんです。今後、動画も共有に向かっているわけで、「すべてインターネットは共有」ってことを原点に広がっていくものだと感じています。だから所有の時代ってとっくに終わってて、常に共有から始まっている。同じコミュニティーの中で、同じ趣味・趣向を持つ人たちが情報交換していくんだと思いますね。

 他者というかコミュニティの中にいる人、それを言いたい「友達」という意味だと思うんですけど、その人がいないとたぶん自分自身が生きていけない、だから創作する理由もないし、存在している意味も分からないと。「合わせ鏡」じゃないですけど、鏡面同士で反射しあい反響しあい、エネルギーを交換していくという重要な自分の一部だととらえることもできるんじゃないかなと。


農業だって子作りだって「クリエイティブ」でいいじゃないか

野村 宇川さんって、景気も悪いところで一人でどんなことをやってんだろうという人も多いので、最後に、宇川さんから学生さんへのメッセージをお願いします。

宇川 世界大恐慌に発展してもおかしくないこの時代に、「創作って何だろう」ってもう一度考えてほしいと思うんです。今日見せてきたものはアートが中心で、さっき言ったデザインとかミュージッククリップとは違う文脈を見せています。それが何かといったら、さっき話したクライアントワークと自己表現の違いという部分もありますが、今、創作って、別に音楽とか映像とか、美術に縛られなくてもいいんじゃないかと思うんです。

 野菜を作るという行為だって、子供を作るという行為だって創作の一部だと思うんです。別にフォーマットに縛られてる問題じゃないと思うんですよね。この時代に「一体、クリエイティブって何なんだろう」ってことを、皆さんの柔軟な脳を保ちながら考えていただきたい。

 やっぱり社会に出たら、徐々に脳が硬直していってしまうというか。大学で教えているときは、自分たちの生徒も頭がやわらかくて、おじさんでも及ばない発想がポンポン出てきてたのに、いきなりデザイン事務所とかに入ったら脳が硬直してしまって……。

野村 染まっちゃいますよね。

宇川 染まっちゃって面白くないやつに成り下がっていたりする現状が確かにある。やわらかい脳を保つのはなかなか難しいことだと思うんです。現実、山積みになったデッドラインをかかえてる日常を送らないといけないって立場にいるなら。

 にもかかわらず忘れないでほしいのは、さっき言った「空想・現実の入出力」「情報・行為の入出力」「体験・日常の入出力」という部分。一度自分の体験の原点を探ってみて、いったい自分の創作というのはどこにあって、これからどう発展していくんだろうってことをこの時代に考えてほしい。映像をやりたい、音楽をやりたい、じゃなくてもいいと。

野村 何かやれっていう感じで。

宇川 そうです。自分のクリエイティブ自体を開発してほしいということだと思うんですよね。

野村 その方法自体をね。

宇川 それを助けてくれるのは、アップルとMacだったりしますよ。本当にそう思います。


 次回の「Dream Classroom」は本日27日(金)で、ミス・ユニバース ナショナル・ディレクターのイネス・リグロンさんが登場する。場所は同じApple Store Ginzaだ。


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