実験映画やディズニーにも影響を受けた
野村 次は実験映画。
宇川 実験映画はアップルコンピュータとつながっているんです。ここからハマっていくのは「ダダ」。シュールレアリズムの流れの中にある実験映画ですね。
エジソンとリュミエール兄弟が発明した映画史ってあるじゃないですか。映写機が発明されて、その後の展開として実験映画というものが生まれて、劇映画から離れていく。劇映画で物語がなく、動くグラフィックデザインを──言ってみればモーショングラフィックみたいなものですね、その原点です。
俺が今日持ってきたスライドは、ハンス・リヒターとウォルター・ルッドマン、オスカー・フィッシンガー、レン・ライ、ノーマン・マクラレンという作家のスチールです。
野村 こういうのは、もう少し歳をとってからハマッた?
宇川 そうですね。これはね、中学生終わりぐらいから徐々にハマッてくるんですよ。
野村 早いですよ。
宇川 早いですかね。これは自分の創作の原点になっています。アブストラクトな、動く連続した絵の積み重ね自体がミュージッククリップの原点だと思うんですよ。それと、音と映像の連動みたいなものを、1920年代から形にしていった人たちなんですよね。
例えばハンス・リヒターだったら、チューリッヒのキュビズム作家だとして活躍していた男なんですけど、その人がダダに立ち会って映像に向かって行く。ウォルター・ルッドマンは、81年前の話なんですけど、ミュンヘンでグラフィックデザイナーとして活躍してたんですよ。その男が映像にハマッていって、動くグラフィックデザインを作るようになったと。
オスカー・フィッシンガーは、ロールペーパーにシェイクスピアを描いてアニメートした男。この人は動く抽象絵画の装置を発明したりして自分で作品を作ってた人なんです。レン・ライはニュージーランドの工業大学でキネティック・スカルプチャー(動く彫刻)を作ってたイギリス人で、「映画こそが動く彫刻だ」として実験映画にハマッていく。
ノーマン・マクラーレンは結構有名だから皆さん知ってると思うんですけど、フランスのアートスクールで古いポジフィルムをたくさん拾って、そこから乳剤を取り払って透明なフィルムに傷を付けたりして映像を作っていったと。
野村 亜流というか、違うアプローチで映像に来た人なんですか。
宇川 そうなんですよ。もともと映画をやろうとして映像にハマッていったんじゃなく……。
野村 違う表現をしようとして。
宇川 絵画だったり彫刻だったりグラフィックデザインをやりながら、映像にハマっていった人たちなんですよね。
野村 宇川さんもやっぱり。
宇川 同じなんですよ。彼らからの影響を直接に受け取っているのが自分なんじゃないかと思うんです。
野村 珍しいですよね。普通、もう少しストーリーがあったりとか、写真から入ったりとか。
宇川 そうなんですよ。かなりアブストラクトなんですよ。あと映写という意味において、光と影で構成されている。フィルムを投影するって行為がそうじゃないですか。それを原点にした彫刻が、この「Fresh Fruits, Vegetables & ANIMA M×K×M」。ディズニーの依頼で作った作品で、果物と野菜だけでできています。カリフラワーがあったり、バナナがあったり、これだけ見ても何だかわかんないでしょ。
野村 これ全部上からペイントしてるんですか?
宇川 そうです。トウモロコシがあったりするんですけど。これを一定の角度から光を当てるとミッキーマウスが浮かび上がると。ディズニーってアニメーションの父とされてる人で、もう100年以上前、1919年からアニメ作っていますが、この人が探求してた原点に光と影(Yin&Yan)がある。幻灯機と同じ装置なんですよ。上映装置の一部を彫刻にしてるという話なんですよね。
さっき見てもらったのは実験映画の巨匠ですが、ディズニーも前提としてあると思うんですよ。アニメーションの父なんで。具体化してるものが動くか、アブストラクトなものが動くかの違いで。やはりディズニーというのが自分の中でも原点にあって、それを作品にしたという。
野村 アブストラクトなものでそういう形を表現するという。
宇川 その原点が光と影にあるんじゃないかという話でこの作品を作り上げました。で、重要なのがその次ですよね。Macintosh。ようやくたどりつきました。