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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第60回

ICT産業を復活させるホワイトスペース

2009年03月25日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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UHF帯のホワイトスペースで市場の創造を

 輸出産業が挫折した今、日本に必要なのは内需、特にサービス業の生産性向上だ。中でも通信サービスは、もっとも有望な産業だ。しかも幸いなことに日本では、技術が急速に進歩している無線技術に必要な周波数が、まもなく大幅に空く予定だ。2011年にアナログ放送が予定どおり終了すれば、UHF帯の470~710MHzのうち約200MHzがホワイトスペース(占拠されているが利用されていない周波数)として利用可能になる。

 昨年11月、FCC(米連邦通信委員会)は、ホワイトスペースを免許不要帯として利用可能とする決定を下し、マイクロソフトやモトローラなどが技術の実証実験を続けている。これまでのところ、出力の高い無線LANによって公衆無線を実現する「Wi-Fi on steroid」と呼ばれる技術がいろいろ試みられているが、まだ技術標準も規制方式も決まっていない。

 しかし規格の決まっていない今がチャンスである。国際標準が決まってからでは、またアメリカ企業に多額のライセンスを払う、儲からないビジネスになってしまう。日本企業の技術力は高いので、日本でもホワイトスペースを開放し、いろいろな技術を実験して国際標準競争に参加すべきだ。日本で空いている200MHzというのは世界でも最大級のホワイトスペースであり、最新の無線技術を使えば100Mbps以上の高速無線通信も可能だ。

 ホワイトスペースは、テレビ局の使っていない周波数を使って通信する技術なので、周波数オークションも必要なく、一定の技術基準を満たせば誰でもビジネスに参入できる。テレビ局は新規参入を恐れてホワイトスペースの利用を阻止しようとしているが、FCCのように免許不要帯に開放すれば、用途は通信サービスなのでテレビ局とは競合しない。むしろテレビ局のネット配信に使えば「モア・チャンネル」になる。

 免許不要帯の通信サービスは基本的に無料になるが、公衆無線の場合にはISPのような形で料金を取ることも可能になろう。通信料金は今の携帯電話よりはるかに安くなるが、端末の市場規模は数十兆円になる。光ファイバー並みの無線通信が実現すれば、NTTに対する非対称規制も必要なくなり、有線・無線のプラットフォーム競争が可能になる。ホワイトスペースの開放は、誰も損しない最高の景気対策だと思うのだが、どうだろうか。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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