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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第20回

同じようで大違い? ISPのWiMAXサービス

2009年03月20日 14時00分更新

文● 西田 宗千佳

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「普通の人」を取りこむため、ISPがWiMAXを提供する

WiMAXは(モバイルブロードバンドの)最上位のサービスという位置付けです(黒政氏)

 ニフティにとって、UQからのWiMAXはどういう位置づけにあるのだろうか? 黒政氏は、現在の固定回線で「光を選ぶかADSLを選ぶか」という選択と同じ、と考えているようだ。

黒政「固定網の場合、電話番号や郵便番号を入れてエリア検索すると、『そこでは、こういったサービスが利用できます』という一覧が出ますよね。そこから価格や速度を考えてサービスを選ぶ。同じような世界をワイヤレスにも持ってきたい、と考えているわけです」

 しかし、ここで問題がある。すでに述べたように、現時点ではUQのサービスとニフティのサービスとでは、違いがほとんど存在しない。まだニフティはモバイルWiMAXサービスの価格体系を発表していないが、MVNO方式でサービス内容も似たようなものになるならば、価格で大きな差をつけるのは難しいだろう。

 だとすれば、消費者に「MVNOのサービスを利用してもらう」意味はどこにあるのだろうか?

黒政「固定でもモバイルでも、『お客様がISPになにを期待するのか?』という点は同じだと思います。それは、価格や安心ということ。例えば、『ADSLがつながらない』という環境のお客様に、WiMAXを提供することも考えられます。その場合、お客様にとってはワイヤレスかどうかも関係ない」

「パソコンに詳しい方なら自己解決できるかもしれませんが、例えば『メールが送れない』という時に、パソコンが悪いのか、回線が悪いのか、どこに障害があるのか、多くのお客様には分からない。ならば、サポートにまとめて聞いた方がいい。だから我々が狙うのは『普通に使っている方々』。後から(ワイヤレスの市場に)やってくる方々です」

「通信の土管部分は、(UQなどと)本質的には違わない。ですが、手続きや上位サービスという部分でご評価いただければ、と思います」

 ISP大手のニフティは会員数も多く、それだけ初心者の数も多い。そう考えればこの考え方には納得がいく。

 だがその上で黒政氏は、「7月に(ニフティがWiMAXサービスを)スタートする際の姿が、最終のビジネスの形ではまったくない」とも言う。黒政氏の語るニフティのWiMAX戦略は、意外なものだった。

記事初出時に一部内容に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。


WiMAX内蔵ノート=白ロム端末?

 現時点でのWiMAXは、パソコンに外付けしたUSBモデムによる接続だけが提供されている。だが、インテルはパソコンに内蔵するWiMAXモジュールをパソコンメーカーに提供する方式を中心に検討しており、遅くとも今夏までには搭載ノートが登場することとなる。黒政氏も「本番はパソコンに内蔵されてから」と期待を寄せている。しかし、それは単に“端末の普及台数が増えるから”というだけの理由ではない。

黒政「今のWiMAX用USBモデムというのは、(携帯電話機に例えれば)『黒ロム端末』ですよね。契約が紐付いていない『白』の状態で端末が流通すること自体が温故知新というか、非常に面白いことなんです」

Intel WiMAX/WiFi Link 5150

インテルのWiMAX無線LANモジュール「Intel WiMAX/WiFi Link 5150」。日本向けのノートパソコンで多用されるのは、右側のハーフサイズになるもよう

 ここで言う「黒」「白」というのは、「通信サービスとの契約」のことを指す。携帯電話で解約後の端末を「白ロム端末」と呼ぶのは知られたことだ。購入時の端末に契約が含まれていないということは、すなわち、「その端末を持っている人は、どのサービス会社とも契約できる」ということを指す。

 ノートパソコンにWiMAXモジュールが内蔵されて出荷される状態とは、「白」の状態だ。日本ではUQか、UQのMVNOを利用することが前提になっているとはいえ、「パソコンを買った段階では契約していない」わけだ。その後購入者は、自分でサービス事業者を選んで契約する。

 すなわちWiMAXという存在は、Ethernetのコネクターやアナログモデムと同じように、「パソコンについてくる、通信のための口」にすぎなくなる、ということでもある。

黒政「(1995年頃の)アナログモデムでインターネット接続していた時代には、パソコンを買ったらまずISPに契約して、という作業がありましたよね。あれと同じことがWiMAXでは起こる、と考えているんです。まだ仕組みは固まってはいませんが、アプリケーションを起動してISPを選び、契約をして、それから接続する、という形になるでしょう。とすれば、プロモーションが非常に重要になります」

 黒政氏が温故知新という言葉を使ったのは、こうしたイメージを持っていたからだ。確かに当時は、「いかにISPとして選んでもらうか」の競争が激しかった。パソコン誌には広告として「特定ISPへ簡単に接続できるキット付きCD-ROM」が付属していたし、店頭でも大量に配布された。今の時代に「接続CD-ROMを配る」ことはないだろうが、「ISP」という分かりやすい入り口を使って、WiMAXへとサービスを誘導することは、ニフティのような事業者にとって大きなビジネスチャンスとなるだろう。

黒政「その上で、価格競争が生まれるかどうか……。それはあくまで他社との競争上の問題ですね。今のイー・モバイルのような(契約インセンティブに基づく)値引きをやるか否かも同様です。できれば避けたいのですが、競合が(価格施策を)仕掛けてくるとなれば、やらざるをえない、ということになるでしょう」

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