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企業・業界レポート 第5回

ASCII Research Interview Vol.3

日本発の最注目サイト「pixiv」のヒミツ(後編)

2009年03月17日 06時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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―― イラスト以外に、例えばFlashなどに手を広げない理由は?

永田 まだまだFlashを作成できるユーザーの数が少ないからです。

片桐 僕らがフォーカスしているのは、「個人がクオリティーの高いコンテンツを創造できる」という構造自体なので、現状でそういったコミュニティが形成できるとすれば、イラストやマンガ以外にはテキストぐらいしかないでしょうね。

―― 例えばPowerPointなどはどうでしょうか。オレのプレゼンはこうだ、みたいな(笑)。……確かに、その基準だとFlashは外れますね。

片桐 そういったものは現状、ニコニコ動画でやったほうがいいと思います。

pixivのサーバ

前回も紹介したが、むき出しのマザーボードや電源、HDDの並ぶ、同社スタッフ手作りのpixivサーバ群。台数が増えるごとに、オフィスに占める面積も増大中。

―― MySpaceのように、名だたるアーティストがプロモーションの場として本格的に使うようになることは、考慮されていますか?

永田 ゆくゆくは、そのような強度を持つ場にはしたいと思います。ただ、有名人枠を作ったりなどの特別扱いはしたくありません。あくまでもフラットでありたいと考えています。有名なプロが登録すれば、それによって多数のファンも登録するだろうことは予想できますが、だからといってプロを客寄せパンダにするような発想はありません。

―― ページの構成を、ユーザーが自由に変えられるようなサイトにされることは?

片桐 それも、現状では考えていません。

―― では、例えばマンガ雑誌の連載マンガ家がこぞってアップロードするようなページを設けたりするのは?

永田 それはあり得ます。法人アカウントの発想ですね。このあたりは難しいのですが、ポジティブな意味で、描く人と見る人がお互いにプラスになるようなかたちにしたいと思っています。ユーザーは鋭いので、金儲け主義に走っている、無理やり仕込んでるといったことは敏感に見抜きます。だから、法人アカウントをやるにしても、ユーザーがそう感じるものにはしたくありません。比較に出し過ぎるのもなんですが、さじ加減の理想としてはやはりコミケです。

―― そのコミケと、何らかのかたちで組むようなお考えは?

片桐 コミケには30年の歴史がある一方で、まだpixivはオープンから1年ですし、組織の規模感も違いますから、もう少し時間をかけたいですね。

永田 わたしたちは「ポッと出」なので、まずはユーザーや権利者の方々からいかに信頼してもらえるかが重要です。そしてその信頼というのは、この1年でなんとなく盛り上がったというだけのサービスでは、まだまだと思います。方向性や考え方をブレさせずに、信頼感を築いていきたいですね。

―― それがないと、グーグルやヤフーが同じサービスを始めたときに、全部持っていかれてしまいますからね。 事業内容は今後、pixivメインになる予定ですか?

片桐 pixiv一本ですね。受託開発などの新規契約は一切していません。Webサービスの開発もpixiv関連に絞ります。

―― 2008年7月に開始した携帯電話版の「pixivモバイル」に関しては?

片桐 あまり力を入れていなかったので、春に向けてリニューアル予定です。現状では7~800万PV/月ほどですね。ユーザーが外出先で閲覧数をチェックする際などに使われているようです。

―― 現在、pixivのIDを流用できるサービスとしてdrawrがあります。ITmediaさんのインタビュー記事によるとその第2弾はブログサービスになるとのことですが、その詳細は?

片桐 これは、ブログ運営会社さんとのコラボ企画になります。公開時期は2009年4月です。

永田 先ほど、イラストに特化したコミュニケーションと言っていたのに、次のサービスがブログというのは言行一致していないと思われるかもしれません。ですがブログサービスを加えるにはやはり理由があります。

 イラストを使ったWeb上での表現は、もちろんpixivに集約してくださればそれに越したことはないのですが、やはり色々なところで見せたいという思いも当然あると思うんです。mixiで日記を書いてる人がブログも持っているのと同じように、pixivにイラストをアップロードしてる人のほとんどは、自分で別途サイトなりブログなりを持っています。

 しかし、現状のブログサービスは、当然ながらテキストを書くことにフォーカスされているので、絵描きさんにとって最適化されているとは言えません。ブログという器しかないからみんなが使っているとするならば、もうちょっとチューニングできるんじゃないかなと考えたのです。要するに、絵描きさんにとって使いやすいブログサービスを提供できればいいなと考えています。

片桐 基本的に、「pixivのIDさえあれば、ネット上で絵を描く活動はすべてまかなえる」ようになればいいなと思っています。pixivがあってdrawrがあって、そしてブログを自分のホームページとして使う、というようなかたちにしたいですね。

―― pixiv IDで使えるサービスは、ほかにどのようなものを考えているのでしょうか?

片桐 まだ具体的には動いていませんが、例えば出版社にイラストを持ち込む際に作成する冊子のウェブ版を作りたい。ブログやpixivではなく、もっと綺麗に作品を展示して、自分のポートフォリオとして他人に公開できるようなものですね。あと、iPhone版を作りたいです。

ユーザーからピクシブのスタッフへ転身した例も

―― ピクシブのスタッフは?

片桐 10名です。そのうち開発担当が6名いますが、pixivはプログラム担当1名、インフラ担当1名の、実質2名で運営しているような状態です。

―― 少人数ですね。ユーザーで運営に協力されている方などはいらっしゃるのでしょうか。

片桐 そういえば、こんなものがあるんですよ(pixivのロゴをかたどったストラップを披露)。今年のエイプリルフールに、「pixivストラップ発売」みたいなイラストがアップロードされて評判になったのですが、そのユーザーさんが後日、本物を作成してくださったんです。そこで、運営ブログでユーザープレゼントとして募集をかけたところ、800通もの応募がきました。あわててそのユーザーさんに連絡をとってみたところ、実家がアクセサリーショップだという話だったので、「ではノベルティーということで300個作ってください」とあらためて注文してでき上がったのがこれなんです。

pixivストラップ

ユーザーによるエイプリルフールのジョークが発端となって生まれた「pixivストラップ」。

―― そのようなユーザーによる応援活動は、mixiの初期を思わせます。そのうちユーザー出身の社員も現れるのではないでしょうか。

片桐 実は、すでに弊社のデザイナーがそうなんですよ。pixivをすごく気に入っているデザイナーがいるよと紹介されたので色々話していたら、僕が興味を持っているウェブサイトのデザイナーだったことがわかりまして。「えー!? じゃあ、一緒にpixivやろうよ!」ということで、入社してもらったという例がすでにあります。

―― そんなpixivですが、運営に課題はありますか?

片桐 特に重大なものはありませんね。サーバールームの拡張でオフィスが狭くなるのと、暑くなるぐらいです(笑)。

永田 あとは、やはり収益化ですね。

片桐 僕らはベンチャーキャピタルからは一切お金をもらっていないので、自分たちの売り上げから人を雇うしかありません。常に人手不足というのはありますね。

―― 株式公開の予定は?

片桐 ありません。上場してしまうと、どうしてもユーザーファースト/サービスファーストの経営が難しくなりがちです。売り上げを追わざるを得なくなると、優先事項が変わってくると思うんです。でも、僕はユーザーを一番に置いてサービスを作っていきたい。今はタイアップの話が来て大金を積まれても、盛り上がらないと判断したら断ったりできるのですが、上場して売り上げを考えるようになったら、そんなことはできなくなる。それは格好悪いと考えています。スマートかつユーザーからも支持されるような会社を目指していきたいですね。

―― グーグルのように、初期関係者の株は10倍の議決権を持つような仕組みを導入してしまえば、上場しても平気かもしれませんよ(笑)。あるいは、もしラリー・ペイジがお金をいっぱい持って「御社はいくらですか」とやって来たらどうしますか?

片桐 僕らはサービスが良くなればそれでいいので、会社というよりもサービスにメリットがあれば……。何にせよ、ユーザーが楽しめて、影響力のある場であればいいなと思っています。

―― でも、サービス名は「Google Pix」とかになっちゃうかもしれませんよ?

片桐 そうかもしれませんね(笑)。

―― pixivのサーバを見ていると、シリコンバレーのコンピュータミュージアムに展示されているGoogle最初期の手作りサーバを思い出します。pixivが世界に羽ばたくウェブサービスとなった暁には、pixivの手作りサーバも、どこかに展示される日がくるかもしれませんね。

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