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企業・業界レポート 第5回

ASCII Research Interview Vol.3

日本発の最注目サイト「pixiv」のヒミツ(後編)

2009年03月17日 06時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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―― pixivコモンズとニコニ・コモンズの違いには、本人へのパスが通っているか否かという点が大きいと思います。営利目的でコンタクトをとりたいときに、スムーズに連絡できるのは便利ですね。ところで、pixivに権利者からの削除要請などはありますか?

片桐 出版社をはじめ、権利者の方々にお会いする機会もありますが、好意的に見てくださっている場合が多いです。クリアしていくべき問題はあるとしても、あまり敵対視はされていないのではと思います。その理由のひとつとして、キャラクターの絵をスキャンしたりキャプチャしたりしてそのままアップロードしているのではなく、あくまで自分で描いたキャラクターをアップロードしているという点が挙げられるかもしれません。つまり、作品に対する“愛”が前提だからです。

ピクシブ取締役 永田寛哲氏

ピクシブ株式会社取締役 永田寛哲氏。「有名人枠を作るなどの特別扱いはしませんが、ゆくゆくは、名だたるアーティストがプロモーションの場として本格的に使えるような強度を持つ場にしたいと思います」

永田 YouTubeやニコニコ動画の場合、DVDやCDが売れなくなるかもしれないという恐怖感があります。その点pixivは、アニメやマンガなどのコンテンツを丸ごとそのままアップロードしているわけではありませんからね。pixivでも、マンガ単行本を1ページ目から順にアップロードしていくといったことがあれば問題になりますが、そういった事例は発生していません。むしろ、現状だけで見ると、おそらくプロモーション的にはプラスに働いている場合もあるのではないでしょうか。

―― コミケにおけるパロディ同人誌やコスプレが、微妙な呼吸で30年間続いている世界に近いですね。

永田 コミケなどがこれまで築きあげた空気感に助けられています。

―― コミケには、権利者側も表立っては何も言いませんが、暗黙の了解がありますよね。しかし、先ほどおっしゃっていた「マンガ一冊丸ごとアップロード」みたいなことをするユーザーがいてもおかしくないと思うのですが?

片桐 いませんね。いませんし、そういったことが行なわれた瞬間に他のユーザーから通報がすごい勢いで飛んできます。

―― そういった「場の雰囲気」というものは、どこで培われるものなのでしょうか?

片桐 基本的に絵を描いている人が多いので「不正するやつは許さん」という気持ちがあります。それに、pixivのコミュニティーを破壊するような行為には、描く側も見る側も厳しいですね。ユーザーはアニメやマンガからスキャン、キャプチャーされた絵ではなく、それぞれのユーザーが描いた絵を見たくてpixivを訪れていますから。ユーザーからの通報には「(pixivで公式絵をアップロードする)意味がわからない。このワンクリックを返せ!」って書かれていたりしますよ。

永田 そういった自治意識というのは、コミケの影響が強いと思います。コミケは常に「次回はないかもしれないぞ」と過剰なまでに危機感を煽ることで、「みんなで一緒に場を作ろう」という意識を高めていますよね。だから、「居心地よい空間を守るためには自治的な意識が必要なのだ」と刷り込まれている人が絵描きさんには多いですね。

―― その雰囲気はオープン当初からですか? 運営側からアナウンスなどはしたのでしょうか。

片桐 特にアナウンスは行なっていませんが、YouTubeやニコニコ動画の事例があったので、不正に対しては迅速な対処を心がけています。ユーザーからの通報が多かったので、その流れに任せようということで、転載などは確実に取り締まる方向になりました。

―― 現在、その手の作業は手動ですか? 専用プログラムを走らせて監視するなどの処置はされているのでしょうか。

片桐 24時間体制で監視はしていますが、絶対数が少ないので、ユーザーからの通報をもとに比較的短時間の作業で終わります。それに不正といっても、確信犯的なものよりも、写真と絵を融合させたような作品でどっちが主体かわからないといったもののほうが多いですね。

永田 利用規約をちゃんと読まずに、勘違いしてアップロードしてしまったケースがほとんどです。

―― 削除作業も運営側ですか? 削除ボランティアのようなユーザーがいるわけではないのですか?

永田 削除はこちらで行なっています。ただ、通報はボランティアといえますよね。

片桐 1日8000~1万枚のイラストがアップロードされていますから、そう考えると不正アップロードは非常に少ないといえます。

当面の目標は150万ユーザー その理由は……

―― では、pixivの適正規模はどの程度だとお考えですか? 現在の自治意識の高さはユーザーの増加と共に薄れてしまう可能性もあると思いますが。

片桐 適正規模というか、国内で150万ユーザーを達成できればいいかなと。

―― その数字の根拠は?

永田 先ほど出てきたコミックマーケットマップの登録数の状況を見て、参加サークルの約1割はpixivに登録していると実感できたのが、ちょうど15万ユーザーぐらいのときなんです。ですからこれが100%になるときは、ユーザー数も150万になっているのではと。

片桐 一方で、コミケとは縁のない美大生などのユーザーさんがたくさんいらっしゃることも確かです。アニメ・マンガ文化の人たちだけでなく、pixivには水墨画や油絵もありますから一概にはいえません。水墨画を描いているおばあちゃんの作品が、アップロードされていたりもするんですよ。普通なら近所の人たち、多くても10人ぐらいに見てもらえれば十分なところを、孫がpixivにアップロードしたことによって、わずか5分程度で簡単に10人以上のアクセス数を得ることができるわけです。

―― 現在主流のアニメ・マンガ文化以外の流れをくむユーザー、例えば定年を過ぎた団塊の世代が10万規模で大量流入した場合、コミュニティーの雰囲気も相当変化すると思うのですが、その際にpixivを「アニメ・マンガ」「水墨画・油絵」「アート」など、ジャンルごとに区切ったりするなどの方策を採る予定はありますか?

永田 タグがひとつのジャンル分けになっていますから、おそらく問題ないと思います。現状の根底を覆すぐらいのビッグウェーブがきた場合はわかりませんが、コミケでも60歳のおばあちゃんが水戸黄門の人形を作って出展されていたりする例もありますし、ニュートラルな場でありたいので、恣意的な誘導は考えていません。逆に言えば、「流れを変えてやろう」という意図的な何かがあった場合は、それに対して介入する可能性はあるかもしれまんが、基本的にはオープンです。……結局は、「想い」なんですよ。描くことが好き、見ることが好き、という純粋な想いによって集まっているという共通点がある限りは「みんな仲良くやっていこうよ」というスタンスでありたいと考えています。

―― 「MySpace」が、音楽という共通項でブレイクしましたよね。構造も何もかも違いますが、アメリカでは音楽だったものが日本では絵だった、みたいなアナロジーはあるかもしれません。MySpaceがあのサイズでやっていけているならば、pixivも平気かもしれませんね。MySpaceとの比較でいうと、SNS的な機能は今後変化するのでしょうか?

片桐 もっと絞っていこうと考えていて、現在再設計中です。年内には変わると思います。人と人がつながり過ぎると無駄なトラブルが多くなることもあるでしょうから、適正な距離感を作りたいと思っています。pixivは、あくまでも絵に焦点を当てていきたいな考えています。

永田 SNS的な機能の充実を考えていくと、「どうやってmixiのユーザーを誘導するか」といった話になってしまい、その結果、場として楽しいものではなくなってしまいますからね。

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