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識者に聞く、ソニー機構改革の思惑と行方

ソニーの機構改革はVAIOやPS3をどう変える?

2009年03月11日 17時00分更新

文● 小西利明/トレンド編集部

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人事のポイントは若返りよりロジカルさ?

 機構改革では、VAIOブランドのパソコン、プレイステーション3(PS3)やPSPなどのゲーム、ウォークマンを含むモバイル機器などの部門は、「ネットワークプロダクツ&サービスグループ」に含まれる。グループトップはSCE(ソニー・コンピュータエンターテインメント)代表取締役社長兼CEOの平井一夫氏が務める。一方のテレビ、「サイバーショット」や「α」などデジカメ(デジタルイメージング)、ビデオ、ホームオーディオなどは、「コンスーマー・プロダクツ・グループ」に属する。グループトップはソニー 業務執行役員EVP兼テレビ事業本部長の吉岡 浩氏が務める。

平井一夫氏

SCE社長兼CEOのまま、ゲーム部門からパソコン、ウォークマンも束ねる「ネットワークプロダクツ&サービスグループ」のプレジデントに就任した平井一夫氏

――では、今回の機構改革で大きなポイントはどこと見ていらっしゃいますか。

本田 まず、ソニーグループの次代を担う、ストリンガー氏の手足になる人たちが、一様に若い人たちが起用されたという点ですかね。ソニーの後継者不足というのは、以前から言われていました。一部には前SCE会長である久多良木氏の復帰を推す声もありましたが、それも中鉢さんの後を継ぐ人材がいなかったからでしょう。今回の人事では、次代のソニー社長を育てたいという意図もあるのでは。

――各グループトップは50代、ネットワークプロダクツ&サービスグループプレジデントの平井一夫氏はまだ40代ですね。将来のソニーを担う人材を一気に抜擢した?

本田 年齢だけでなく、ロジカルに戦略を立てていける人材を選んだ、という印象がありますね。感性や感情だけに流されない。

――といいますと?

本田 例えば、「これはこういう製品なんだから、この部分はゆずれんだろう」といった、ある意味では開発者や企画者のわがままが、製品を前へと進めるという側面があります。

 しかし、それは経営者として効率を求める部分とは相反するところではないか。新しくソニーを担う方たちもソニー育ちですから、根本的なところでは熱さを感じるところもあるのですが、一方で合理性というか、経営者的視点での理性というのも感じるんですよね。そのバランスが、従来よりも合理的な方向に向いているのではないかと。

ソニーの商品説明会では、商品企画担当者やエンジニアが、実に嬉しそうに手がけた製品のことを語るのを実によく目にする(写真はVAIO type Z)。時には「担当者の暴走じゃないか」と思う製品もあるが、そうした要素もまた「ソニーらしさ」につながっていたのは確かだ。そのバランスがどう変わるか……

――確かに。しかし、そういったある種わがままな部分にこそ、私たちがソニーらしさを感じていたという面もあります。ただ、それが利益につながらない面が大きすぎた。もっとロジカルに、ビジネスとしての正否を冷静に見極めていく、それができる人材をトップにすえた、ということでしょうか。

本田 バランス的にそういう面がどうなるかが、まだよく分からないのが正直なところです。ASCII.jp読者であれば、例えば「尖った商品企画のパソコンがなくなるかも?」と思うかもしれませんが、たぶん、それはありません。ここで言っているのは、もっと感情的に“ウェット”な部分のことです。もしかするとソニーが“普通の会社”の方向に変わっていく可能性もあるのかなと。もっとも、私も幹部の方全員と話したことがあるわけではありませんから、これは憶測です。


製品同士の親和性を高める改革になるか?

――今回の機構改革では、A(オーディオ)V(ビジュアル)C(コンピューター)G(ゲーミング)の4要素のうち、A・C・Gをひとつの部門にまとめています。ここにはどのような意図があるとお考えでしょうか。

本田 以前からSCEには、多くのAV系の技術者やVAIOの技術者が出向していました。ですので、急に何かが変わることはないかと思います。

 ただ、SCEとソニーはもともと完全に別の会社、別の文化を持っていましたよね。PS3以降、SCEにソニーの血を入れて成功した部分もあるのだけど、内部的にそれがうまく融合しているかというと……、それほど単純ではないでしょう。感覚や文化の違いはあったと聞いています。

――各製品を見ていても、密接に連携、あるいは一体化しているという印象は薄いですね。相互につながりはするけど、それは業界標準を互いに利用しているだけで、個々の商品企画やその上の商品戦略では、必ずしも十分に連携しているわけではない。

本田 本来なら、同じコンセンサスを共有して同じ目標に向かわなきゃ、力なんて出せないわけです。もし経営陣も同じことを感じているとするなら、今回の組織変更で、もっとうまく自社製品同士が連携するようになるかもしれません。

ソニーのゲーム機、テレビ、BDレコーダー、一部パソコンソフトでお馴染みの「クロスメディアバー」。UIの共通化はこれで実現されているが、その先の機能連携については、まだまだ不十分な点も多い

――現状でもソニーの製品は、比較的A・V・C・G間での連携が図られていると思います。しかし、これではまだまだ不十分であり、それを阻害する垣根を取り除くという点が、今回のネットワークプロダクツグループ設立のポイント、というところでしょうか。

本田 これは強い要望なのですが、「つながるようにしました」とか「つながってほしい」ってだけじゃ無意味だと思うんですよ。使う側からすれば「つながらないなんてあり得ない」わけです。つながったところがスタート地点。よりよい製品だと感じてもらいたければ、その先の体験を上質に演出しなければならない。同じ世代の同じメーカーの製品なら、つながって当たり前でしょうと。

 DLNAのバージョンがどうだとか、サーバーに互換性がないだとか、そんなのユーザーの知ったこっちゃない。買ってきてコードをつないで、つながらなかったら欠陥商品ですよ。だから今はソニーに限らず、どこも欠陥商品だらけ。それをうまいことをつながるように努力している人間だけが、なんとかメディアを自由に楽しめている。

――「DLNA対応」をうたう機器同士でも、あの機器はつながらないだの、そのコンテンツは表示できないだの、“できない”が当たり前ですからね。

本田 ストリンガー氏はオープンスタンダードを強調していましたが、オープンスタンダードの上で製品を作りながら、それでも「当たり前に機器がつながって、互いに付加価値を高められる」製品同士の親和性を築けるかどうかが、今回の組織変更の効果として、今後注目すべきところでしょう。

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