英FON WIRELESS Ltd.の子会社であるフォン・ジャパン(株)は4日、東京・南青山の青山会館アイビーホールにプレス関係者を集め、日本でのビジネス展開を開始したと発表した。FONに参加するための専用無線LANルーターを今月5日から9日までの5日間のみ無料提供(通常価格は1980円)するキャンペーンを実施するほか、九十九電機(株)およびエキサイト(株)と業務提携してコミュニティーの拡大を目指すという。
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La Fonera(FON対応無線LANルーター)を手にする、FON WIRELESS Ltd.の創設者兼CEOのマーティン・バルサフスキー氏 |
無線LANアクセスポイントを参加者同士で共有
FONは2005年11月にスペイン・マドリッドで設立された企業だが、そもそもは“ありがちな希望”から浮かんだアイデアだと、FON WIRELESS Ltd.の創設者兼CEOのマーティン・バルサフスキー(Martin Varsavsky)氏は語る。「家の快適な環境でWi-Fi対応デバイスを使っていた。ノキアのWi-Fi&3G対応携帯電話機やニンテンドーDS、Wi-Fi対応のニコンのデジタルカメラなどだ。ところが、家にいると“王様気分”で使えるのに、一歩外に出ると“物乞い”しなくてはならない状況になる。実際、パリに行った時にWi-Fiコネクションを探してみたら、“ロックされている”(WEPなどで認証を求める)ものばかり。そこで、『自分が出かけている時には、自宅のWi-Fiを開放する代わりに、ここ(出先)では自由に使わせてくれる』というコミュニティーがあればいいんじゃないか、と思いついたんだ」
FONには3つの参加形態がある。
- Linus(ライナス)
- 自分のWi-Fiスポットを無料で開放する代わりに、ほかのFONコミュニティーを無料で利用できる
- Bill(ビル)
- 自分のWi-Fiスポットを1日あたり3ドル(約350円)で有料提供し、その収益の50%を自身が受け取る(残り50%はFONが受ける)。その代わり、ほかのFONコミュニティーは有料で利用する
- Alien(エイリアン)
- 自分ではWi-Fiスポットを提供せず、FONコミュニティーが提供するWi-Fiスポットを有料(1日あたり3ドル)で使うユーザー
名前を見れば想像できるように、Linusはオープンソース的な考え方でお互いに奉仕しあってメリットを享受しようという考え方。Billはもっと資本主義的で儲けたい商売人のイメージというわけだ(バルサフスキー氏は、Linusはライナス・トーバルス(Linus Torvalds)氏のように社会主義的、Billはビル・ゲイツ(Bill Gates)氏のような資本主義的と、冗談めかして形容した)。
このうち日本では当面Linusのサービスのみ展開し、追ってAlienの提供も検討するという。
FONの仕組み
FONでは、専用の無線LANルーター(“ラ・フォネラ”(LaFonera)と呼ぶ)を自宅などのブロードバンド回線に接続して、2つの無線ネットワークを構築する。ひとつは公開用アクセスポイントで、もうひとつはブロードバンド回線の契約者が個人的に使うプライベートネットワークのアクセスポイントだ。双方は初期設定で遮断されており、プライベートネットワークが危険にさらされることはないという。さらに、公開側ネットワークが利用できる帯域を制限することも可能で、FON参加者によって自宅のブロードバンド回線が圧迫されるといった心配もないという。ちなみに、このFON対応無線LANルーターを設置したユーザーを“フォネロ(Fonero)”と呼ぶ。
FONに登録・参加すると、最初に公開アクセスポイントを設置した住所や自分の名前などを登録する。これは米Google社のGoogle Mapsにマッピングされて公開される。利用したい場合は、Google Mapsでアクセスポイントを探して、その場所に行く。また、2時間ごとにネットワークの有効性を確認する認証サーバーが機能しており、もしFONに参加しているユーザーが自分のWi-Fiスポットを無効にしている(無線LANルーターを外すなど)場合には、そのユーザーにメールで警告が届く仕組みになっている。さらに1ヵ月間無効状態が続くと、そのユーザーに発行されたIDとパスワードが無効化され、FONコミュニティーのほかのWi-Fiスポットが利用できなくなる。
FONの未来はバラ色か?
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フォン・ジャパンのCEOの藤本潤一氏 |
こうしたブロードバンド回線の共有については、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)などが約款などで規制・禁止しているケースもあるが、これについてバルサフスキー氏は、「FONの本質を知ってもらえば、ISPもFONを歓迎するし、実際世界ではFONと提携してメリットを受けている回線業者も多い」と自信を見せる。バルサフスキー氏の論拠は、
- Linusモデルの場合、必ず自分も何らかのブロードバンドインターネット回線に加入しているユーザーが、自分の回線をほかの人に使わせる代わりに、別の人の回線を借りているだけ
- FONに参加したからといって、ブロードバンドインターネット回線を乗換えたり、契約をやめてしまうようなことにはならない
- BillやAlienでの売り上げをシェアするという提携を結んだ回線業者もあり、ISPのプラスになることが理解されている
などとしている。
FONは現在、欧州、米国、韓国などのアジアなどでサービスを行なっており、16万8000人の参加者がいるという。この参加者のLinus/Bill/Alienの内訳を聞かれると、「国によって違うが、韓国やドイツ、スペインなどでは80%がLinus」と答えた。しかし、Linusだけばかりでは最初の費用となる無線LANルーター代しか売り上げがなく、同社のビジネスとしてはバルサフスキー氏自身も「BillとAlienの増加によってビジネスが成立すると考えている」と述べている。しかし、「実際のところは(将来の比率は)分からない」とも語り、まだ歩き始めたばかりのFONのビジネスとしての成功には利用者とISPの理解、および参加者の増加によるサービスエリアの拡大がまずは不可欠であるという現状を改めて示した。
なお、同日発表された九十九電機、エキサイトとの提携内容は、九十九電機の店頭およびオンラインショップにてFON対応無線LANルーターの販売を行なうことと、エキサイトが運営するネットカフェ“エキサイト・ブロードバンド・カフェ”(東京や関西圏で26店舗)に順次FON対応無線LANルーターを導入。さらにエキサイトのISPサービス、BB.exciteの会員で東京都在住の3000名を対象にモニター募集を行ない、FON対応無線LANルーターを無償提供し、エキサイト内の物販サイト“ショッピング・エキサイト”でFON対応無線LANルーターを今月中旬から販売開始するというもの。
