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Vistaの発売日は1月30日?――デジタルTV対応に注文相次いだマイクロソフトとパソコンメーカーのディスカッション

2006年11月06日 20時16分更新

文● 編集部 小西利明

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米マイクロソフト社CEOのスティーブ・バルマー氏(右)
米マイクロソフト社CEOのスティーブ・バルマー氏(右)

マイクロソフト(株)は6日、日本の大手パソコンメーカー8社の代表を招いたディスカッション“PC Innovation Future Forum”を東京都内のホテルにて開催。その模様を報道関係者に公開した。各社からはWindows Vistaのデジタル放送対応に要望が相次いだほか、OSのモジュラー化などの要望が寄せられた。また席上で米マイクロソフト社CEOのスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏が、Windows Vistaの発売日について1月30日と明言するハプニング?もあった。

同フォーラムにはバルマー氏を始めとしたマイクロソフトの幹部4名と、国内大手パソコンメーカーの代表者8名が参加して行なわれた。パソコンメーカー側の出席者は以下のとおり(50音順)。

フォーラム参加者の方々。前8人が国内パソコンメーカー各社の代表者
フォーラム参加者の方々。前8人が国内パソコンメーカー各社の代表者
     
  • エプソンダイレクト(株) 取締役社長 山田明氏
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  • NECパーソナルプロダクツ(株) 代表取締役執行役員社長 高須英世氏
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  • シャープ(株) 情報通信事業本部 本部長 大畠正巳氏
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  • ソニー(株) コーポレート・エグゼクティブ シニアバイスプレジデント VAIO事業部門長 石田佳久氏
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  • (株)東芝 執行役上席常務 PC&ネットワーク社社長 能仲久嗣氏
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  • (株)日立製作所 ユビキタスプラットフォームシステムグループ・ユビキタスシステム事業部 事業部長 金子徹氏
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  • 富士通(株) 経営執行役 パーソナルビジネス本部長 山本正己氏
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  • 松下電器産業(株) パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 事業部長 高木俊幸氏

挨拶を述べたバルマー氏は、パートナーでもある各社への感謝を述べたうえで、同社側の業界に対する視点について語った。バルマー氏は同社の事業がパソコンに止まらず拡大している現在でも、パソコンビジネスが同社の事業の中核である点を強調。Vistaへの期待が同社だけでなく業界全体のものである一方で、「Windows 95と比較するのは難しい。異なる時期に導入され、パソコンはコンシューマーが唯一意識するデバイスだった。今は携帯電話や音楽プレーヤー、ゲーム機など、多くの競争がコンシューマーのイマジネーションに関して存在する」と述べ、Windows 95のような市場に対する爆発的な効果を、やんわりと否定した。一方で「パソコンはIT産業のハブ」とも述べ、多様なデジタル機器やサービスが普及した現在および近い将来も、パソコンが最も強力なデバイスであり続けるとの見方を示した。

また日本市場については、「より高い値段で、より機能のある革新的なマシンが世界のどこよりも販売されている。これはひとつのチャンスである」と述べ、ローエンドの“PC”と多機能な“PC+”という2つの市場が成立しうるとした。日本におけるパソコン市場の拡大についても、飽和しつつあるコンシューマー市場と異なり、「日本の中小事業者の市場規模は、米国のそれの半分。何百万台ものパソコンを、新たに日本市場で展開できる」として、市場拡大の余地は依然として大きいとした。

フォーラムの様子。マイクロソフトに対する率直な注文や要望が数々ぶつけられた
フォーラムの様子。マイクロソフトに対する率直な注文や要望が数々ぶつけられた

続いて各社の代表者が順に、自社の製品戦略を披露すると共に、マイクロソフトへの要望を述べるパートが行なわれた。中でも多くの代表者が要望に挙げたのは、“デジタルTV放送への対応”“OSのモジュラー化”“モビリティーへの対応”の3点であった。

現在のWindows Vistaは、OS自体には日本の地上/BS/110度CSデジタル放送の受信・表示・録画などに対応するため機能は備わっておらず、各社が独自に実装するしかない。ある意味では各社の腕の見せ所であるわけだが、開発期間・コストの増大や製品価格の上昇を招く点では喜ばしい状況ではない。デジタル放送対応への優先順位をもっと上げてほしいとの声は何社からも挙げられた。

ふたつめの“OSのモジュラー化”は、Windows CEのような組み込み機器向けOSのようなモジュラー構造のOSをパソコン用にも……、というわけではないだろう。Vistaを構成するコンポーネントや機能を、限られた製品バリエーション(Home BasicやHome Premium、Businessなど)で分けるのではなく、パソコンメーカー側が自社の製品に適した形で選択して搭載できるようにしてほしい、という切実な声だ。Vistaの製品バリエーションが、日本のコンシューマー市場のニーズを反映していないという不満はパソコンメーカーに根強くある。パソコンメーカーによるコンポーネント選択に自由度を持たせることで、市場ニーズに合った機能とコストの製品を提供したいとの要望は、消費者にとってもぜひ検討してもらいたい点である。

モビリティーへの対応強化については、日本市場の特性への配慮を訴える声が挙げられた。米国では14~15インチ級の液晶ディスプレーを備え、重量では3kg近いような大型ノートでも“モバイル”の分野に分類されるケースが多い。日本では到底“モバイルノート”とは呼ばれないようなケースだ。そうした米国の基準だけで、モバイルノートを捉えてほしくないという意見の表明が相次いだ。

たとえば富士通の山本氏は、多機能で操作性にも配慮したな日本の携帯電話機を引き合いに、「これが日本の文化に根ざした物であり、その日本の文化を最大に利用したのが、我々の目指すモバイルPC」と述べ、「日本発の新しいイノベーションに目を向け、OSに取り込んでほしい」と訴えた。松下電器産業の高木氏も同様に、米国の言うモバイルノートよりも軽く、長時間駆動が可能なノートパソコンによって、「我々が想像していないような市場が開拓できるのではないか」と述べて、真の意味でのモビリティーの重視を訴えた。

各社の意見表明が一巡した後、バルマー氏は各社の意見を受け止めるとした。デジタル放送対応については、「(AVとの融合は)世界ではまだ、これほど大きなテーマになっていない」と弁明しつつも、「真剣に受け止めた」と述べた。軽量で長時間駆動する携帯電話のようなモバイルノートについても、「我々に仕事が要請されている」として、取り組む姿勢を見せた。一方でOSのモジュラー化については、意見の表明を受け止める姿勢を見せつつも、具体的な取り組みの検討については発言がなかった。

この種のイベントが公開で行なわれる場合、問題点には目をつぶって“みんなで市場を盛り上げよう”といった方向で、ある意味予定調和的進行に終始することが多い。その点では各社の代表がトーンはともかく、マイクロソフトに対して“これじゃ困る。もっとこうしてくれ”との意見を公開の場でぶつけたこの会合は、良い意味で予想外なディスカッションとなったように思える。あるいはそうした予定調和に迎合する気がなくなるほど、メーカー各社に不満が溜まっている表われという見方も、できるかもしれない。こうした声にこれから、マイクロソフトはどう応えていくのかが注目される。

なおVistaの発売日の件については、東芝の能仲氏が“1月より先に、これ以上遅れることのないように”と述べたのに対して、バルマー氏が笑いながら「1月30日だ!」と答えるという一幕で披露された。ただし1月30日に発売されるのが日本語版なのかについては、コメントはなかった。

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