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【ちえものづくり展 Vol.1】ヒントは日本刀! 独創的“プローブ”が支えるHDD製造

2006年09月27日 23時06分更新

文● 編集部 西村賢

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精密な電子機器の電気特性検査に欠かせない測定器“コンタクト・プローブ”。電子デバイス高集積化のニーズに合わせ、プローブも多様化し、進化している。そのプローブの製造技術で他の追随を許さない独創的な発明を続ける町工場がある。清田製作所――、通称“世界のキヨタ”。画期的発明となったキヨタの“積層型プローブ”は日本刀の製造技法がヒントになったという。

デジタルやナノの世界でも「ものづくり」に知恵と汗

今月8日から約1年の開催予定で、東京・青山のTEPIAで“第19回ちえものづくり展”が始まった。(財)機械産業記念事業財団が主催する本展には、携帯電話機や高度集積回路、工作機械など日本の製造業を支える技術・製品が多く展示されている。

携帯電話機や、それを支える高度集積回路といった高度なデジタル製品は、ともするとCADやモデラー、シミュレーターといったコンピューター上のツールで設計される純頭脳労働の産物と捉えられがちだ。しかし、実際には携帯電話の例で言えば、ネジやヒンジといった微細なパーツは言うに及ばず、そこに搭載される集積チップや、バッテリーケースの金属成形技術といったものに至るまで、それは職人の技と知恵、そして何よりも多大な努力が注ぎ込まれた“ものづくり”の成果の結晶だ。ちえものづくり展は、そうした職人たちの成果をまとめて見られる、デジタルガジェット好きにオススメの展示会だ。

高密度化するハードディスク製造を支える“日本刀”式プローブ

展示会から1つ、パソコンユーザーに関係しそうな技術を紹介したい。HDD製造に関わる画期的な発明だ。

東京都北区にある町工場、(有)清田製作所はハイテク製造業を支える“小さな世界企業”だ。画期的なコンタクト・プローブの研究開発で知られる。

プローブ部品のサンプル。非常に小さい“針”のようなパーツだ

コンタクト・プローブとは微小な電気テスターで利用する細い金属の針の対だ。細い2本の針を使って、検査対象の材料や部品の電気抵抗などを調べるために使う。一般的にはタングステン素材のワイヤーで作製するが、被検査物に接触させるため、ある程度の弾性が必要となる。針状にしたのでは、接触させたときに折れてしまうからだ。弾性をもたせるために、ワイヤーを長くして先端をS字などに折り曲げるなどの工夫があるが、そうすると今度は折り曲げ部分に高周波の交流電流を流したときに発生する磁界によるノイズが大きく、精密な検査ができなくなるなどの問題があった。また、時代とともにプローブの微細化が進むに従って耐久性にも問題が出てきた。

清田茂男氏は、こうした問題を解決するために、それまでの円筒型プローブの常識からは考えられない、板状のプローブを思いつく。それは折れも曲がりもしない日本刀の鍛錬法にヒントを得たものだったという。

積層型プローブ
積層型プローブはキヨタの独創的な研究開発

金属薄板を多数積層させ、その先端に穴を開けて特殊な金属ワイヤーを埋め込む。こうして従来製品に比べて50倍以上の寿命を実現した。従来のシリンダー内にスプリングを入れる複雑な構造のプローブに比べて、微細化にも有利で、それまで200~400マイクロメートルだったプローブのピッチも、現在は20マイクロメートル程度も可能というところまで来ているという。日本人の髪の毛の太さは80マイクロメートル程度だから、髪の毛1本の幅に4本のプローブがあるという微細加工。まさに金属加工の職人技の世界で、類似製品が作れる企業は世界でも清田氏のほかにイギリスに1人いるのみという。

キヨタが開発した積層プローブは、ハードディスクの磁気読み取りヘッド製造の現場でも活躍している。2000年ごろから普及を始め、現在も主流である記録方式“GRM”(Giant Magneto Resistive:巨大磁気抵抗効果型)のヘッド検査用プローブにも使われている。昨今のストレージの大容量化は、言うまでもなくハードディスクの高密度化と低価格化のおかげなわけだが、そうした蔭には清田氏のような一般ユーザーの目には入ってこない金属加工職人というアナログ世界のマエストロがいたのだ。

ハードディスクの磁気ヘッド検査用プローブ。職人技が高密度化するハードディスクの技術を支えている

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