まず『ウィズダム英和辞典 第2版』『同 和英辞典』を10月10日に
『大辞林 第三版』は10月27日に刊行
中央が、10月27日に発売予定の大辞林 第三版、左は10月10日発売ウィズダム英和辞典 第2版、右が同 和英辞典の各冊子版カバー |
(株)三省堂は11日、東京・水道橋の東京ドームホテルにプレス関係者を集め、出版界で初となる冊子とウェブの両媒体で同時出版する新形態の辞典“電紙辞典(でんしじてん)”を10月に発売すると発表した。まず10月10日に『ウィズダム英和辞典 第2版』と『ウィズダム和英辞典』を、続いて今年から“文字・活字文化の日”に制定された10月27日に、11年ぶりの改訂版となる『大辞林 第三版』を発売する。価格はウィズダム英和辞典と和英辞典が各3300円、大辞林は8190円(2007年5月31日までは発売記念特別定価で7665円)。
大辞林 第三版の基本編集方針 | ウィズダム英和辞典 第2版の編集方針と特徴 | 新たに和英辞典もラインナップされる | ||
各辞典の特徴 |
電紙辞典は、従来の電子辞典を開発する行程と異なり、最初から電子辞書(ウェブ版)と冊子版を同時開発するべくプロセスの見直しから行なったという。具体的には、XML形式で辞書データを管理したマスターデータを作成。ここからウェブ向けにHTML出力すると同時に、冊子向けにXSLT(スタイルシート)による自動組版を行ない、編集時には紙のゲラ(校正用簡易印刷出力)と遠隔地にいる筆者校正向けのウェブ出力を同時並行して行なった。
出版局辞書出版部次長の瀧本多加志(たきもとたかし)氏 |
三省堂ではこのワークフローを2005年7月頃に確立させて運用を行なっていたという。実現には、XMLからの自動組版処理を三省堂印刷(株)から、辞書データの運用・管理を行なうデータベース“HiBaseエンジン”をホロン(株)から協力を得ることで実現。これにより、従来の「冊子版を主として、ウェブ版は従とする」という考えを改めて、「レイアウト済みのデータから意味づけされた(XML)データへの変換作業が不要になり、定価への上乗せに至らずに済んだ」(出版局辞書出版部次長の瀧本多加志氏)とメリットを説明する。
従来から刷新されたワークフロー |
辞書を購入したユーザーは、パソコンから専用ウェブサイト“Sanseido Dual Dictionary(三省堂デュアル・ディクショナリー)”(http://www.dual-d.net)にアクセスして購入した辞書のウェブ版を利用できる(本日から“試用版”として一部機能が利用できるサイトを公開している)。利用開始するには最初にユーザー登録が必要で、個人情報の入力後に書籍を保有していることを確認するクイズ2題が出題される。内容は日替わりで、“見出し語「imitate」の第二定義における三番目の単語を入力せよ。”という具合だという。2題とも正解するとパスワードが発行され、以降はユーザー登録時のメールアドレスと発行されたパスワードでウェブ版の辞書検索が可能になる。このユーザー管理システムは(株)インフォアクトが開発したシステムとのこと。
ウェブ版大辞林の画面 |
一度登録が済むと、特に契約更新などの必要はなく同一ユーザーであれば異なる場所からでもウェブ版の辞書引きが可能になる。同社では利用期限は設けておらず、「少なくとも次の改訂版が出るまではご利用いただける」(瀧本氏)としている。ただし、従来の「辞典は家で1冊買って、家族で共有して使うもの」という社会通念からすると、冊子版1冊に1アカウント(1ユーザー分の利用権)しか発行されない電紙辞典が今までのユーザーに受け入れられるかは発売されてみないと分からないところもある。なおユーザー管理システムによって、同一アカウントによる同時アクセスは制限されている。
ウィズダム英和辞典のウェブ版では、ネイティブによる発音も収録されている | ウィズダム和英辞典のウェブ版で用例から検索したところ |
ウェブ版では、大辞林の約23万8000語を初めとした各辞典の見出し語、および収録した用例や本文項目(英和/和英辞典では複合語や成句も含む)に対して前方一致/部分(中間)一致/後方一致の検索が行えるほか、類語検索ボタンも用意し、デジタル辞書の検索性の高さを活用している。また、冊子版には含まれない新語・俗語(大辞林で約1万語)や用例(英和辞典で約2000件)を追加し、ユーザーの要望や社会情勢などに応じて随時追加・更新も行なうという。こうした“Web 2.0的双方向性の追求”もウェブ版辞書ならではの特徴としている。
「電子辞書メーカーにはむしろ感謝している」
代表取締役社長の八幡統厚氏 |
今回、冊子版とウェブ版のハイブリッド辞典を刊行した背景について、代表取締役社長の八幡統厚(はちまんすえあつ)氏は、「辞書の市場規模は売り上げで電子辞書に逆転されている。しかし辞書ユーザーの総規模は大きく広がり、金額市場で2.5倍へと逆に広がった。これは(電子辞書なら使うという)潜在的なユーザーを掘り起こせなかった怠慢であり、むしろ電子辞書メーカーに感謝している。今後の課題は、さまざまな媒体を積極的に活用していくこと。辞典はデジタル(電子辞書)の時代を経て今、紙とデジタルが共存する“第3の時代”になろうとしている。レコードがCDに変わったようなメディアの全面移行ではなく、紙の信頼性や一覧性とデジタルの検索性や即応性を融合した形がユーザーに求められている。辞書メーカーはどこも採算性において厳しい状況だが、勇気をもってそこに踏み出した」と、強い決意で望む姿勢を強調した。