このページの本文へ

【INTERVIEW】「Time Machineとは競合しない」――『Data Rescue』のアイギークが語るバックアップソフトの今とこれから(前編)

2006年09月01日 05時57分更新

文● 編集部 広田稔

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷


デイビッド・L・スミス氏
米アイギーク社の社長、デイビッド・L・スミス氏

米アップルコンピュータ社がMacの世界開発者会議“WWDC”にて明らかにした、次期Mac OS X“Leopard(レパード)”。その目玉機能と言えば、バックアップ機能の『Time Machine』だ。

OSの標準機能で手軽にバックアップが可能になることは、ユーザーにとって歓迎すべき状況だが、その一方で既存のバックアップソフトとの競合も懸念される。今までバックアップソフトを作り続けてきたソフトメーカーは、Time Machieをどう見ているのだろうか。

今回から2回にわたって、データ復旧ソフトの『Data Rescue II(データレスキュー)』や、バックアップソフトの『Indelible Desktop Backup(インデリブル デスクトップ バックアップ)』を手掛ける、米アイギーク社の社長、デイビッド・L・スミス(David L. Smith)氏にインタビューし、Time Machineの影響とユーティリティの今後についてうかがった。



デイビッド・L・スミス(David L. Smith)氏
1986年よりソフトウエア技術開発に取り組む。Open Vision、EMC、アップルコンピュータなどを経て独立。アップルコンピュータ時代に2つの米国技術特許を取得。専門分野は、データベース、ネットワーク、セキュリティ、OSデザイン、ストレージデザインなど。2000年に米アイギーグ(iGeek, Inc.)の米国本社を、2001年に日本支社を設立し、両社の社長を兼務。現在日本市場を中心にビジネスを展開している。


Data Rescue II Indelible Desktop Backup
データ復旧ソフトの『Data Rescue II』バックアップソフトの『Indelible Desktop Backup』

Data Rescue IIやIndelible Desktop Backupは、アイギークのオンラインショップで購入できる。



アップルのマーケティングセンスが光るTime Machine

[編集部] Time Machineの第一印象は?
[スミス氏] Time Machineの素晴らしいところは、バックアップという使い古されているが分かりにくいコンセプトを、一般ユーザーにきちんと訴求できている点です。

Time Machineは、Indelible Desktop Backupの“バージョン付きバックアップ”機能そのものですが、同じ技術をよりわかりやすく解説しています。「設定の手間やスキルが必要」とバックアップを敬遠していた一般ユーザーに対して、敷居を低くすることに成功しているでしょう。

まさにアップルのマーケティングセンスのたまものでしょう。Time Machineは、うっかりミスでファイルを失ってしまうことが多い初心者にとっては朗報となるはずです。

データを失う原因
[編集部] そもそもユーザーはどんなシチュエーションでデータを失うのでしょうか?
[スミス氏] 大きく分けて“Woops!”と“Oh! No!”という2種類のケースがあると思います。ひとつはうっかり削除やファイルの誤移動といった、自分の操作に責任がある場合。もうひとつは自分の意思では防ぎきれない、ディスククラッシュや災害、盗難などです。

実は日本は高温多湿という気候のせいで、米国に比べて特に7~9月にHDDのクラッシュが増える傾向にあります。これは予期せぬ熱によってHDDがダメージを受けて壊れてしまうからです。



デジタルライフの安心を保証するバックアップ

[編集部] アップルはなぜ今のタイミングでバックアップ機能をOSに搭載してきたのでしょうか?
[スミス氏] アップルが今、一番フォーカスを置いているのは、『iTunes』『iPhoto』『iMovie』などのソフトを使って一般ユーザーにデジタルライフを体験してもらおうということです。

ところがこのデジタルライフを推進する上で、写真、音楽、ムービーと言ったデジタルドキュメントが非常に壊れやすいことが問題になってきます。

紙やテープなどの過去のメディアとは異なり、デジタルデータは一瞬で消去されてしまいますし、そのデータを収めているHDDは絶対に壊れないわけではありません。

アップルは、今後デジタルライフを進めていく以上、起こりうる問題に対する回避策、つまりデータ保護にも真剣に取り組まなければいけなくなってきたのでしょう。

[編集部] Time Machineの対象となるユーザーは?
[スミス氏] 私の主観では、Time Machineの狙いは一般ユーザーのコアデータを守り、バックアップの大切さを認知させるという点にあると思います。

WWDCの基調講演では、「世間ではよくバックアップしろと言われているが、実際にやっている人は26%しかいない。しかもソフトを使って定期的にバックアップを使っているユーザーは、全体の4%だ」という発言がありました(参考記事)。

26%の人々は、気がついたときに大切なデータを手動でCDやDVDなどのメディアにコピーする行為を“バックアップ”だと思い込んでいるわけです。われわれがメーカー側がバックアップと呼ぶ、ツールを使って定期的にデータを保存していく方法は大半の人が実行していないのです。

Time Machineは、その26%のユーザーに正しいやり方でバックアップを取ってもらい、さらに現状で何も手を打っていない残りの70%の人にも使ってもらえるようなソリューションを目指しているのでしょう。

実はアップルが示すこのバックアップの普及率が、なぜ弊社の『Data Rescue II』がなぜ口コミで広まって、これだけ早く市場に定着したかということも裏付けています。

ユーザーの皆さんがきちんとバックアップを取っていれば、例えHDDがクラッシュしてもData Rescue IIは必要ないわけです。私たちが言うのも何ですが、正直、Data Rescue IIは“こんなに売れてはいけないソフト”だと思っています。


Time Machineとは対象ユーザーや機能で競合しない

[編集部] Time Machineの登場は、既存のバックアップソフトの売れ行きに影響しますか?
[スミス氏] Time Machineによって、バックアップが必要なすべての顧客をアップルに取られるようなことは起こらないでしょう。先ほども触れたように、Time Machineと市販のバックアップソフトでは、対象ユーザーが異なります。

Time Machineは、例えばiTunesやiPhotoのように一般のMacユーザーにとってなじみ深い存在で、かつユーザーの90%が「使いやすい」と感じるようなポジションを目指しているのではないでしょうか。

そのためTime Machineを使用してから、もっと高度なバックアップ機能が欲しいという人も出てくるでしょう。ただし、アップルが随時、そうしたニーズに応じて細かい機能をアップデートするかといえば、多分しないのではないかと思っています。

弊社のIndelible Desktop Backupのようなバックアップソフトは、どちらかと言えばテクニカルなユーザーでも満足できるような高度な機能を提供しています。Time Machineでバックアップの重要性に気づき始めたユーザーに、より高い満足を与えることができると確信しています。

[編集部] Time Machineに懸念されることは何でしょう?
[スミス氏] タイムマシンを使うには外付けHDDが必要になってきますが、われわれがこの業界でいろいろなユーザーと接してきた経験上、半数くらいの人はわざわざ外付けHDDを用意しないのではないでしょうか。

Time Machineは素晴らしい機能だと思うし、バックアップする意思もあるけれど、外付けHDDを買ってまでやりたくはないというユーザーに対してどうケアしていくかが鍵になると思います。

また、テストしていないので断言はできませんが、実際にバックアップを取ると、Macの動作が遅くなるのではと予想しております。過去にファイルサーバーなどを手がけてきた経験から言いますと、かなり時間がかかったり、ユーザーが重いと感じるようになるかもしれません。(つづく)


第2回は“Data Rescue IIとファイル復旧の現在”についてまとめていく

取材協力/アイギーク 

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中