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【INTERVIEW】ThinkPad X60シリーズに見る、変わるものと変わらないもの

2006年03月17日 20時17分更新

文● 編集部 小林久

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平野氏
研究・開発デザイン主任デザイナーの平野氏

第3世代を標榜したThinkPad X60シリーズだが、外見は従来のThinkPadと大きくは変わってはいない。つや消しブラックの本体と、キーボードの中央に設けられた赤いトラックポイント。フラットな天面……。これらは、1993年に発表された『ThinkPad 700C』以来、終始一貫したThinkPadのブランド・アイデンティティーである。

このThinkPadのデザインに、ある人はそこに伝統と安心感を見出し、ある人は代わり映えしない保守的なマシンという感想を持つ。いずれにしても変化の早いパソコン業界で10年以上、同じデザインを保ち続けたマシンというのは例がない。

「変えないことには勇気がいる」と語るのは、ThinkPad X60シリーズのデザインを手がけた、研究・開発デザイン主任デザイナーの平野浩樹(ひらの ひろき)氏である。「ThinkPad 600に魅せられて日本アイ・ビー・エムの門を叩いた」と言う平野氏は、ビジネススーツのデザインに例えながら、ThinkPadのデザインを説明する。ビジネススーツは何十年に渡って変わらないスタイルに、時代を反映した細かなアクセントが散りばめられている。

ThinkPadのブラック筐体は、1992年に発表された初代『ThinkPad 700C』(国内では『PS/55note C52 486SLC』)から採用され続けている。途中いくつかの例外もあったが、ThinkPadの黒と赤は伝統としてユーザーに認知され、ThinkPadのブランドイメージと密接に連携してきた。“変わらないThinkPadのデザイン”は、一方で保守的という印象も与えるが、それが強固なブランドイメージと信頼感の源にもなっている。

国内メーカーの製品では、見た目の奇抜さだけで売る製品も存在し、同一シリーズでも1~2年も立つと、従来とは180度異なる色や形状を採用してしまう場合がある。変化を求めるがために、自身の姿を見失いがちなパソコンメーカーも少なくない。そんな中、ThinkPadは「敢えて変えない」「変える必要もない」という信念のもと、他社のマシンにはない、強固なブランドイメージをユーザーに定着させた。変わらないものはデザインだけではない。



キーボード
X60シリーズのキーボード。Windowsキーが追加されている。撮影:小林 伸

例えば、ThinkPadに搭載されているキーボードは、縦に7段のキーを配置した配列を伝統的に採用している。デスクトップと同じ配列にすることで、ユーザーの使いやすさを確保することを念頭に置いているためだ。X60シリーズでは、Windowsキーの追加などキーボードレイアウトの変更が行なわれたが、Fnキーとのコンビネーションで操作する各種機能の配置もシリーズ間でブレさせず、従来機種からの乗り換えユーザーがとまどいを感じないようにしている。また、第3世代では変更されてしまったが、ACアダプターなどの共通化も図られており、買い換えユーザーが既存の資産を生かしつつ、違和感なく新機種に乗り換えられるような配慮もある。こういった継続性への配慮は他社製品ではしばしば忘れられてしまうことだ。

第3世代のThinkPadでは、型番もフォームファクターを示す英数字に世代を示す2桁の数字とし、2000年以降用いられていたXシリーズ、Tシリーズなどのラインとの継続感も維持するようにしている。

賞賛と驚きをもって迎えられた新製品も、発売後1週間もすれば熱気は冷め、ひと月で関心の外に置かれ、3ヵ月もすれば新製品にリプレースされる。そして、1年も経たずに過去の製品となる。国内で1年間にリリースされるパソコンの新製品は200モデルを下らないと思うが、そのうち長くユーザーの記憶に残る製品は何台あるだろうか?

「進化の価値」を否定するつもりはさらさらないが、同時に目新しさだけで売る新製品が“古くなる”速度もまた速い。あっという間に陳腐化し、早々のうちに“新製品”にとって代わられることになる。数年前の製品を使うことが、なんだか格好悪く思えることも少なくない。パソコン業界の一隅に身を置いて、毎日のように配信されてくる新製品の情報に目を通していると、ときとして虚しさを感じることがある。

ThinkPadブランドの魅力は、変わらないことによって旧機種の価値も維持される点にあるのではないだろうか。変わらないのは優れているため。優れているものだから、また使いたくなる。そんな気持ちを抱かせるThinkPadの伝統は開発陣がIBMからレノボへと移っても変わらず継続されている。

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