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食の安全にも役立つユビキタス――ucodeを利用した食品トレーサビリティーの実証実験開始

2006年02月22日 16時50分更新

文● 編集部 小林久

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T-Engineフォーラムは22日、“ユビキタスID技術”を利用した食品トレーサビリティーの実証実験に関する記者発表を行なった。会見にはT-Engineフォーラム会長の坂村健(さかむら けん)氏が出席。食の安全に対して、ユビキタスコンピューティングが果たす役割について説明した。

坂村健氏
坂村健氏。手にしているのは実証実験で用いられたeTRON内蔵のクレジットカード

食品トレーサビリティーとは、生産現場から食卓までの履歴をさかのぼれる仕組みを指す。安全な食品を消費者が店頭で購入できるようにすることを目的としており、食材や加工品を、いつどこで誰が生産し、どのような流通経路で消費者の手元に届けられたのかを把握することで、食品事故の原因を究明したり、被害の広がりを防げるようにする。

T-Engineフォーラムでは、農林水産省が2005年度から取り組んでいる“ユビキタス食の安全・安心システム開発事業”の一環として、今年から北海道のコープさっぽろ新道店、コープさっぽろ美園店、サミット三鷹市役所前店、日本橋三越本店で実証実験を段階的に開始している。

上記店舗では、T-Engineフォーラム内に設置された“ユビキタスIDセンター”が管理する個体識別番号“ucode”(ユーコード)を取り扱い商品に貼付し、店内に設けられた専用端末を利用して、生産者や使用した農薬など、その食品の情報を参照できるようにしている。ucodeの記録媒体には無線ICタグが用いられることもあるが、コストと扱いやすさを考慮に入れて2次元バーコードも利用している。商品パッケージに貼り付けるucodeタグは、肉や魚などをパッケージする際に行ない、計量と同時に価格や消費期限、ucodeタグの印字など同時に行なえる専用機器(ユビキタスモデル化計量器)も開発した。

先行して実証実験を行なっているコープさっぽろ両店では、(株)ライフと共同で開発したeTRON搭載のICクレジットカードを300枚発行し、モニター配布した。カードで購入した食品の履歴を後から確認できるほか、自分のアレルギー情報や連絡先などを会員情報として登録しておくことで、食品にアレルゲンが含まれているかどうかの確認も行なえる。アレルギーなどの個人プロファイルはeTRONのセキュリティー機能で守られており、カード所有者以外は参照できない。また、コープの顧客情報と連動することで、食品にトラブルが生じた際に危険を通知する機能なども提供可能だという。



コープさっぽろ実験(1) コープさっぽろ実験(2)
コープさっぽろの実証実験では、購入履歴やアレルギー情報を格納できる、ICクレジットーカードも利用された。セキュリティーにも配慮しeTRONが用いられている

また、日本橋三越本店で明日から行なわれる実証実験では“浅草今半”の弁当にucodeを貼付している。弁当のような加工品では、食材の情報もトレースできるようにする必要があるが、そのために材料のucodeを数学的な処理でマージして、材料のucodeと関連付けを行なった、弁当用のucodeを生成する仕組みを導入したという。国内で販売されている牛肉には、BSE対策などのために、すでに個体識別番号が割り振られているが、三越の実証実験ではその情報を店舗内ディスプレーや携帯電話機などでユーザーが参照できる仕組みも提供する。

三越実験(1)
三越で明日から開始される実証実験では、2次元バーコードを利用し、加工品(弁当)に使われている食材の情報なども参照できるようになった
三越実験(2) 三越実験(3)
弁当の放送に貼付された2次元バーコードタイプの“ucode”(左)、商品情報に加え、産地や材料の詳細も確認できる(右)

T-Engineフォーラム会長でユビキタスIDセンター代表を務める東京大学教授の坂村健氏は、実証実験ならびに、T-Engineフォーラムなどが推進している、ユビキタスコンピューティングのねらいに関して説明した。ユビキタス食品情報基盤システムの構築に当たって重視した項目として坂村氏は、在庫管理やサプライチェーン用の既存システムと緩やかな結合を実現できる“連邦型システム”であること、コストに見合った付加価値を提供できるシステムとすること、組織を超えた運用が可能であること、必要に応じてアクセスできる情報の制限(例えば販売店への卸値や個人情報など)ができること、などを挙げた。

また、ユビキタスコンピューティングが“コンテクストアウェアー”(状況認識)によって、現実世界とコンピューターの中の仮想世界をリンクさせることを目的としている点を改めて強調。現実世界に存在するさまざまな事象を区別する“ucode”の有用性をアピールした。

坂村氏はサプライチェーンの分野で導入が進んでいる、米国の非営利団体EPCグローバルの無線ICタグ仕様に関しても言及。ucodeが、EPCコードと敵対するものではないと説明した。ucodeが提供するものはあくまでも個体を識別するための識別番号であり、その情報はネットワーク上で分散運用されたさまざまなデータベースから提供される。そのデータベースの運用方法に関しては特に規定がないため、EPCコードを使った管理も可能であるという主張だ。ユビキタスIDセンターが行なっていることは、実質的に重複したucodeを割り振らないための管理と、ucodeに対応した情報がどこにあるかを指示するアドレス解決サーバーの運営のみとなる。

先行開始された生活協同組合とサミット(株)との実証実験は23日(開始はそれぞれ1月25日と2月13日)で終了。日本橋三越本店では23日から3月2日まで行なわれる予定。

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