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アジアのオンラインゲームの動向が見える!?――“アジア オンライン ゲーム カンファレンス 2006 東京”(AOGC 2006 Tokyo)開幕

2006年02月09日 20時00分更新

文● 編集部 小西利明

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コンテンツ経営研究所所長の魏晶玄氏
コンテンツ経営研究所所長の魏晶玄氏

午後に行なわれたセッションでは、ソウル中央大学経営学科助教授で、(社)コンテンツ経営研究所所長の魏晶玄氏による“アジアオンラインゲーム市場の動向と戦略”が、非常に興味深い内容であった。魏氏の講演は、日中韓およびASEAN地域でのオンラインゲーム市場の動向についてのレポートであるが、いずれもオンラインゲームが盛んながら、4地域それぞれで市場動向が大きく異なることが示された。

まずオンラインゲーム先進国である韓国の現状では、韓国オンラインゲーム市場を牽引してきたMMORPGは、“コミュニティー性”と“ゲーム性”の2つの属性を備えているが、最近ではゲーム性を高めるべく、特にグラフィックスの品質向上に力を入れる企業やゲームが増えていると述べられた。ゲーム性の向上にゲーム開発企業が力を入れる理由について魏氏は、既存のMMORPGがネットワークによるコミュニティー性という新しい属性にとらわれて、ゲーム性に問題があったためとしている。しかし魏氏は、各社がゲーム性の中で特にグラフィックス水準の向上を重視する傾向について、「必ずしも良い方向性とは言えない」と厳しく指摘した。ゲームはグラフィックスだけで勝負するものではなく、またグラフィックスの強化はコストがかかるのに、差異がユーザーに伝わりにくく、華美な見た目で「ユーザーをだます効果がある」。ゆえにグラフィックスによる差別化は飽きられやすいと言うことだ。かつての日本の家庭用ゲーム機市場の姿が思い浮かぶ指摘である。

魏氏がグラフィックス向上に力を入れているMMORPGとして例に上げた2タイトル。左は『SUN』(韓国Webzen社)。現在プレオープンベータ中。右は『グラナド・エスパダ』。日本では(株)ハンビットユビキタスエンターテインメントがサービス予定
魏氏がグラフィックス向上に力を入れているMMORPGとして例に上げた2タイトル。左は『SUN』(韓国Webzen社)。現在プレオープンベータ中。右は『グラナド・エスパダ』。日本では(株)ハンビットユビキタスエンターテインメントがサービス予定

魏氏は、韓国ではオンラインゲーム市場が拡大期を終え、成長はしているが2000年代初頭の急激な拡大からは鈍化しているとした。そのうえで産業のライフサイクルの変化に合わせた、戦略が必要となると述べた。またMMORPGの主流であった月極の定額課金制ビジネスモデルはかなり弱体化しており、ゲーム自体は無料でサービスし、ゲーム内アイテムを有料で販売する“アイテム課金”による部分有料化モデルが急速に広がっていると指摘した。ただしアイテム課金の広がりがあまりに急激だったため、定額課金制をベースに設計されたゲームを単純にアイテム課金制に切り替えるのは難しく、ゲームによっては有料サービスへの移行にためらうケースも出てきているという。アイテム課金制のゲームは、課金モデルに合わせた設計が必要であるという。一方でアイテム課金制は収益の多様化も可能で、ユーザーの嗜好に合わせたマーケティングが重要となるとも述べた。

またそのほかにも魏氏は2005年の韓国オンラインゲーム市場について、米国や日中のオンラインゲームの進出と現状についても報告した。まず米Blizzard Entertainment社が開発し、欧米で圧倒的人気を誇り500万人以上のユーザーを抱えるMMORPG『World of Warcraft』は、当初韓国でも成功したように見えたが、月額2500円という課金の高さと、ベテランプレイヤーの定着に対して新規ユーザーが減り、ゲーム内コミュニティーが硬直化しているという問題点を抱えていると指摘した。魏氏は「水は溜まると腐る」という表現を用いて、ベテランがやめても新規ユーザーが入ってくるというコミュニティーの循環が必要であると述べた。また日本の(株)コーエーが開発した『大航海時代オンライン』も、前評判が高かったにも関わらず無料サービスから有料課金サービスへの移行を急ぎすぎ、“有料化されてもゲームを続ける”というコミュニティーが成長していなかったため、商業的には失敗したと述べた。またMMORPGががある意味苦しんでいる状況に対して、スポーツゲームをオンラインゲーム化した“カジュアルゲーム”が成功を収めている点も指摘した。

日本市場については、圧倒的に強力な家庭用ゲーム機(コンソールゲーム)から、パソコンベースのオンラインゲームへの移行は発生していないということを、“経路依存性”という言葉を軸に解説した。そして経路依存性の存在により市場自体が制限されているにも関わらず、韓国で開発されたMMORPGが大量に流入している状況を“過剰進出”と指摘した。魏氏はかなり手厳しく、ゲーム性に優れたコンソールゲームが豊富にある日本市場では、ゲーム性に問題を抱え、さらに体験しないと面白さが伝わらないMMORPGは、新規ユーザーの獲得は難しいとした。また本来コアゲーマーとなる10代が、オンラインゲームを遊んでいないという日本の状況についても、「1番の問題。日本がかなり弱い点」として、強く警鐘を鳴らした。

魏氏はセガの『三国志大戦』や『ムシキング』を、射幸性の高さや“人対人”の面白さでプレイヤーを引きつけた点は、ほかのオンラインゲームにも使えるのではと述べた
魏氏はセガの『三国志大戦』や『ムシキング』を、射幸性の高さや“人対人”の面白さでプレイヤーを引きつけた点は、ほかのオンラインゲームにも使えるのではと述べた

一方で魏氏は、(株)セガがゲームセンターで展開するオンライン対戦型カードゲーム『三国志大戦』や『ムシキング』について取り上げた。トレーディングカードをベースにした射幸性の高さと“人対人の遊び”の面白さで大ヒットとなったこれらのゲームは、日本型オンラインゲームのビジネスモデルとなる可能性があるとして、高く評価している。

ユーザー数2634万人と、劇的に拡大した中国のオンラインゲーム市場については、中国政府の支援もあって、国産ゲーム開発が急速に進んでいるとした。2005年には192タイトルのオンラインゲームが開発されており、開発者数も2004年の3倍にもなる約1万2600人に増加しているという。また水準は決して高くはないものの、3Dグラフィックスエンジンを自力開発する企業も現われるなど、技術レベルも向上しており、なにより同時接続100万人規模のサーバー環境(比較的安価なサーバーを大量に組み合わせる)を運営する能力の高さを評価した。また海外への進出も日本メーカーより早いと指摘。中国キングソフト社が開発したMMORPGがベトナムで人気を集めるなど、先行者利益の獲得にも乗り出しているとした。もっとも、韓国に進出した『航海世紀』が失敗するなど、品質面の低さによる海外進出へのハードルは高いと思われる。

またASEAN諸国の市場については、ブロードバンドのインフラが弱く大都市の“PCバン”以外では存在せず、「オンラインゲーム市場は大きな海の小さな島」だけにしかないとした。しかしこれらの国々ではほかのエンターテイメントも少ないため、特に若年層には強力なコンテンツとなっていると言う。傾向としては中国市場に似ているものの、各国ごとにゲーム市場の発展段階が異なり、さらに国ごとに文化的な障壁(タイは仏教、マレーシアはイスラム教が強く、性的要素の強いものはサービスできない。ベトナムは社会主義体制下)もあり、ビジネスとしての難しさを抱えているとの問題点を指摘した。

魏氏が撮影したというベトナムの“違法”PCバン。ベトナムのPCバンの半数は違法営業であるとのこと
魏氏が撮影したというベトナムの“違法”PCバン。ベトナムのPCバンの半数は違法営業であるとのこと

まとめとして魏氏は、4地域の市場動向を表で示し、各地域共通の要素として、アイテム課金制の課金モデルが急速に広がっている点、韓国企業が4地域すべてに進出しているのに対して、日本企業の影が薄い点などを指摘した。またオンラインゲーム産業の発展段階についても、韓国はすでに成熟期に入りつつあり、ユーザー争奪戦となっていると指摘。一方で日本はゆるやかながらまだ拡大期にあり、中国は拡大期の後期にすでに入っていて、1~2年で成熟期に入るだろうとの見方を示した。そのうえで、各地域のインフラ水準の差や、ユーザー傾向の違いによる戦略の差、経路依存性などについての戦略が、4地域でのオンラインゲームビジネス展開に必要であるとして、講演を締めくくった。

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