日本IBM、デジタル家電のデザインコンサルティングの展示場“DCEイノベーションラボ”を披露――IBMデザインの斬新な携帯デジタル機器なども展示
2005年12月06日 04時04分更新
IBMがデザインしたポータブルビデオ編集機のモックアップ。左右の円形のパッドで操作を行なう | DCEイノベーションラボに併設されている、デザインスタッフのオフィス |
日本アイ・ビー・エム(株)(以下日本IBM)は5日、神奈川県大和市にある同社大和事業所内に開設された“DCEイノベーションラボ”を、報道関係者に公開。同社のデザインコンサルティング事業と、その研究物や成果物などを披露した。同ラボは6日から、顧客企業に対しても公開が行なわれる。
IBMのデザインコンサルティングについて語る米IBM デザインコンサルティング&エクスペリエンス部門 ディレクターのリー・グリーン(Lee Green)氏 |
米IBM社では自社製品のデザインを手がけるだけでなく、顧客企業に対してのデザインコンサルティングを事業として行なってもいる。デザインといっても製品の外観のデザインだけでなく、ユーザーインターフェースやソフトウェア、あるいは機器内部のチップなども含むなど多岐に渡っている。日本IBM大和事業所には、アジア・パシフィック地域のデザイン部門を統括する“ユーザーエクスペリエンス・デザインセンター”が置かれていて、20年ほど前から自社や他社製品のデザイン研究・開発を手がけている。ここに新たに開設されたDCEイノベーションラボの“DCE”とは、“Digital Consumer Electronics”の略で、同社のノウハウや技術を、デジタル家電を初めとするデジタル情報機器開発に、どのような形でフィードバックできるかを、顧客企業にアピールするための場である。
IBMがデザインしたニューヨーク証券取引所内で使われている携帯情報端末 | 同じくIBMがデザインコンサルティングを行なった、病院内で使う携帯型のヘルスモニター機器のモックアップ。脈拍や血圧等をモニターして手元で表示するほか、ネットワーク経由での情報伝達も可能 |
日本IBM ユーザーエクスペリエンス・デザインセンター マネージャー/部長の山崎和彦氏 |
ユーザーエクスペリエンス・デザインセンター マネージャー/部長の山崎和彦氏は、DCEイノベーションラボの目的として、“Smile Experience”(ユーザーにとって心地よい、楽しい体験)を提供することにあるとして、そのために同社の技術や手法、ツールを使っていくと述べた。同社ではSmile Experienceを実現するための手法を、ユーザー中心の開発・設計という意味で“ユーザーセンタード・デザイン(User Centered Design)”と呼んでいる。山崎氏はSmile Experienceを考えるための3つの軸として、“どんな人が使うのか”“どこで使うのか”“いつ使うのか”のキーワードを挙げ、これらによって機器の役割や重要性が変わるため、考慮しなくてはならないと語った。
DCEイノベーションラボ内には、同社の技術や手法を用いたデモ展示が行なわれている。その中で比較的共通して見られる要素の1つが、“異なるユーザーに合わせて同じ機器でもユーザーインターフェースを変える”というものだ。想定されるユーザー像を具体的に定義(性別、年齢、職種、機器の使用シーン)して、そのユーザーが使いやすいと想定されるインターフェースに切り替えることで、使いやすさを向上することを目指している。たとえば乗用車のナビゲーションシステムなどは、パソコンに習熟した中年男性ユーザーは、パソコンで目的地までのデータを調べてから乗ると想定。ICカード化されたキーにデータを取り込み、それを車載機器側に読み込む。一方携帯電話を使い慣れた若い女性ユーザーは、携帯電話で調べた店のデータを読み込むという具合だ。また携帯電話を想定したデモでも同様に、パソコン慣れした男性ユーザー、携帯電話やプリクラに慣れた女性ユーザー、フィルムカメラに慣れた年配ユーザーなどのモデルケースごとに、メニュー構成やメール機能、カメラ機能のユーザーインターフェースが変わるという様子をデモした。
車載情報機器のインターフェースのデモ。40代でパソコンに慣れた男性ユーザーをイメージした操作系では、パソコンからのデータ取り込みを想定した操作を披露 | 同じ機器で、今度は20代女性をイメージしたデモ。データの取り込み方法だけでなく、画面の配色やそこに表示される要素も変わる |
ディーラー向けの機能として、故障時に車載機器からの情報を情報端末で確認する機能もデモされた。これにより故障個所の把握を迅速に行なえるようになる |
携帯機器の展示では、シチズン時計(株)と共同開発した腕時計型パソコン“WatchPad”が展示されていたほか、中国企業からの依頼でデザインしたポータブルオーディオプレーヤーや、CPUやベースバンドプロセッサーを搭載した機能部と、液晶画面や操作パネルを分離した次世代携帯電話機、CPUなどを収めた中枢部が可搬式となっていて、ノートパソコン内部に収納したり、クレイドル型のベースに装着してその場に合った使い方のできるパソコンなどのモックアップが披露されていた。機能部と操作部を分離した携帯電話機などは、技術的には現在でも可能と思えるもので、携帯電話機の新しいユーセージモデルを予感させる魅力的なものだった。
“Orangeプロジェクト”と呼ばれる次世代携帯電話機のコンセプトデザインの数々。バッテリーをどう収めるかの問題はあるが、このままでも商品として通用しそうな魅力的なものが並ぶ | 次世代ポータブルオーディオプレーヤーのモックアップ。写真上側中央にある白いプレーヤーは中国企業の依頼でデザインしたもので、右手にあるお茶碗型の充電器に乗せて充電する |
冒頭で掲載したポータブルビデオ編集機は、このように液晶画面を閉じての使用も想定しているらしい。ポータブルビデオプレーヤーとしても魅力的だ |
ユニバーサルデザインの次世代パソコンのモックアップ。スタンドに立てられている長方形の物体が、CPUなどを内蔵したコア部分 | コア部分をスタンドから外して、ノートパソコンの中に装着するだけで、機能やデータをデスクトップからノートに持ち出せる |
またDCEイノベーションラボには、ユーザーが機器をどう使うか、どこに戸惑いを感じるかをテストする“ユーザー評価ラボ”も併設されていて、テストユーザーが機器を扱う様子を複数のビデオカメラで記録できる設備が整えられている。同社の開発者は最低一度はここに来て、ユーザーが機器をどう使うかを知ることを求められているそうだ。
ユーザー評価ラボでは、ガラスの向こうの部屋でユーザーが機器を操作する様子を、手前側の部屋でモニターし、ユーザーがどこで戸惑うかなどを調べる | 複数台のカメラを使い、ユーザーの様子や機器の画面を多角的に撮影、記録する |
これらのほかにも、可視光には見えないが紫外線ライトを当てると浮かび上がる特殊なインクを使い、新聞紙面上にQRコードを印刷することで新聞をデジタルデータの媒体にする研究開発なども披露された。ThinkPadを初めとして、同社大和事業所からは魅力的な製品が次々と送り出されてきた。また同社の名前が表に出ることはないが、すでに1000件ものデザインコンサルティングが、同事業所から行なわれた実績もあるという。DCEイノベーションラボの開設により、魅力的な技術とデザインが組み合わされた製品が、さらに世に送り出されることを期待したい。
透明インクを使った情報配信のデモ。ただの新聞紙面に見えるが…… | 紫外線LEDを照射すると、紙面上に印刷されたQRコードが浮かび上がる。通常の印刷では紙面にQRコードのための余計なスペースが必要だが、これなら紙面を邪魔せずに、QRコードで情報配信が行なえる |
QRコードは3KB弱のデータ量があるため、新聞紙面を丸ごと記録することも可能。機器として携帯電話機を想定しているので、ネットワークを利用して最新の情報にリンクさせることもできる。ちなみに紫外線LEDは、青色LEDの技術をベースに開発されているそうだ |