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場所にIDを振ることで、世界の把握に近づく──坂村健氏の講演から

2005年11月10日 22時22分更新

文● 編集部 小林久

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(財)国土技術研究センターの東京都ICタグ実証実験事務局は10日、東京・上野恩賜公園および恩賜上野動物園内で10月13日から実施している“東京ユビキタス計画・上野まちナビ実験”に関連したシンポジウムを開催した。

坂村氏
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長の坂村健氏

上野まちナビ実験は、上野公園や上野動物園内の主要ポイントに無線ICタグを埋め込み、YRPユビキタス研究所が開発したTRONベースの携帯情報端末“ユビキタスコミュニケータ”(UC)を使って、道案内や動物の紹介といった情報を提供するもの。国土交通省の“自律支援プロジェクト”と連携するほか、東京都も実験に参加している。

シンポジウムの基調講演では、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長で、東京大学大学院情報学環・副学環長・教授の坂村健(さかむら けん)氏が講演した。坂村氏は講演で“ユビキタスコンピューティングとは何か”、“ユビキタスコンピューティング街づくりにどう応用できるか”の2点に関して説明した。

ucodeのしくみ
ucodeの概念図

坂村氏はユビキタスコンピューティングの究極的な目的として「現実空間をコンピューターが自動的に認識できること」であると述べた。そのために利用されるのが“ucode”(ユーコード)と呼ばれる、実世界のさまざまな“モノ”に対して割り振られる固有のIDで、無線タグなどの形態で提供される。坂村氏によると「ucodeの最大の特徴は固体を識別する番号のみを提供している点」であり、「その固体の最新の情報は常にネットワーク上のデータベースから提供される点」が重要であるとした。

似たものに、商品に添付されている13桁の数字(バーコード)があるが、バーコードの番号には具体的な“製品の情報”も含まれている。バーコードを読み取ることで「どの国のどの会社の何番目の製品か」という情報は得られるが、「出荷後にどんな不良が生じたか?」あるいは「どの国のどの会社の何番目の製品か」とは異なるその物体の情報を付加することはできない。ネットワークのデータベースと固有のIDを組み合わせることで、その製品の状態をリアルタイムに、あるいは利用ニーズに応じた情報を自動的に追加できる点が、ucodeの利点というわけだ。固有のIDを提供するというucodeの特徴は、国や業界を超えた情報の整合性を取るのに威力を発揮する。IDの割り振り方は業種によって異なるのが一般的であり、意味コードでは限界がある。



実証実験の様子
上野で行なわれている実証実験の様子

坂村氏は講演で米国の非営利団体EPCグローバルが進めている無線ICタグの仕組みにも言及し、「EPCグローバルは、モノの状態を把握するというよりは物流を想定しており、無線タグにそのモノの情報全部を付加する。その意味で点でバーコードの延長と言える。一方でucodeは固有の番号を提供するだけで、ネットワークを利用してその情報を提供する。どちらがいいとは言えないが、違うことは確か」と述べた。

自律支援プロジェクトでは、このucodeを固体ではなく、場所ごとに設定しているのが特徴的だ。坂村氏は「同じモノであっても、それが置かれている空間や場所によって意味付けは異なる」と指摘。同時にその場所の意味を一度デジタル化してしまえば、受け手に合わせた情報に翻訳して提供することも比較的に容易であり、外国人にはその国の言葉に適した言語で、視覚や聴覚の障害者には音声や手話といった表現方法を選ぶことができる。

坂村氏は「エンジニア主導ではなく実際に使う人が参加していくことが必要」と述べ、視覚障害者の人々の協力を受け、最適な形での応用方法を実証実験している事例なども紹介した。

自律支援プロジェクトでは、現在上野の森で行なわれている実証実験のほか、今年5月から兵庫県・神戸市に4万個のタグを用意した実証実験を行なっており、今後はオーストラリアのタスマニア島などでの実験も予定しているという。また、東京・秋葉原ダイビル2Fでは実証実験の仕組みやユビキタスの技術を紹介する“ユビキタス技術展示”の催しも30日まで行なわれている。



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