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アドビ システムズ、第3四半期業績説明会を開催――『Adobe Creative Suite 2』などにより売上高前年比21%増

2005年09月29日 15時49分更新

文● 編集部 佐久間康仁

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アドビ システムズ(株)は29日、東京・恵比寿のウェスティンホテル東京にプレス関係者を集め、米アドビ システムズ(Adobe Systems)社の第3四半期業績説明会を開催した。売上高、営業利益とも前年同期比で2桁の高い成長を見せており、その要因として日本では6月に発表されたプロクリエイター向けデザインツール群『Adobe Creative Suite 2』、およびPDF作成・管理ツール“Adobe Acrobat”シリーズの需要が堅調に伸びたことなどを挙げた。

2005年度第3四半期決算

売上高/前年同期比
4億8700万ドル(約550億3100万円)/21%増
営業利益/前年同期比
1億8360万ドル(約207億4680万円)/31%増
純利益/前年同期比
1億4490万ドル(約167億7370万円)/39%増

事業プラットフォーム別売上比率

Creative Professional
42%
Intelligent Document
34%
Digital Imaging and Video
20%
OEM
4%

地域別売上比率

アメリカ
47%
EMEA(ヨーロッパ/中東/アフリカ)
31%
アジア
22%
米アドビ システムズ社のCEOのブルース・チゼン氏
米アドビ システムズ社のCEOのブルース・チゼン氏

2005年度(第3四半期まで)の累計売上高は14億5600万ドル(約1645億2800万円)。2005年度第4四半期の売り上げ目標は4億9000万~5億1000万ドル(533億7000万~576億3000万円)と定めており、これは昨年度(2004年度)の年間売上高16億6700万ドル(約1883億7100万円)を3億ドル(339億円)程度上回る数値目標になる。

発表会場には、米アドビ システムズ社のCEO(最高経営責任者)のブルース・チゼン(Bruce Chizen)氏が登場し、司会者とのQ&A形式のインタビューで好調な業績の要因などを説明した。

[司会] 業績について、一番要因は?
[ブルース・チゼン氏] 第3四半期は、前年同期比で21%の伸びを達成している。その大きな要因は『Adobe Creative Suite 2』が大成功を収めたこと。特に、フランス語/ドイツ語/日本語の各製品をタイムリーに出せたことが大きい。また、“Acrobat”製品の売り上げも大きく貢献しており、前年同期比28%の高い成長を見せた。
[――] この業績で日本が占める割合は?
[チゼン氏] 全世界の22%が“日本を含むアジア地域”の売り上げだ。日本以外の多くのアジア市場では、残念ながら不正コピーがはびこっているため、十分な売り上げを上げられない。22%のほとんどは日本での売り上げになる。
[――] 日本市場戦略について、具体的に教えてください。
[チゼン氏] 日本は、アメリカに次いで世界で2番目に大きな市場。日本市場向けには3つの戦略を立てている。
1) PDFベースのワークフローによって製造業などの企業・官公庁の業務効率化を支援する“Acrobat”“Livecycle”などの製品
2) “Creative Suite”を中心とする文書管理サーバー製品群。出版業界やグラフィックアーティスト、ウェブデザイナー向けの統合ソリューションを提供することに注力している。新聞/雑誌/ウェブなどで魅力あるコンテンツを提供できるように今後も支援する。とりわけ日本のユーザーは“情報の質”にこだわる。そこに努力する出版業界のニーズに応えるためのツールを提供し続ける
3) 最後は“モバイル戦略”。日本の多くの方が携帯電話でコミュニケーションしたりコンテンツを楽しんでいる。そのためのツールを提供する。携帯電話の利用形態は日本が世界の先端を行っている。Adobe Readerを携帯電話に搭載することで、ウェブ上のさまざまなコンテンツを読めるようにしていく。
[――] 先日(今月2日付けで)、日本法人の社長だった石井 幹氏が退任したが、後任はどうなっているのか?


米アドビ システムズ社のCEOのブルース・チゼン氏
[チゼン氏] 現在、日本法人新社長の任命に向けて積極的に動いている。しかし、その要求条件は高い。適任者が見つかるまでの間、米国でOEMおよびチャンネルセールスを務めるスー・シーン(Sue Scheen)が担当する。アドビ ジャパンはこれまでも成功を収めているので、社長がいない間も実績を築き続けるだろう。
[――] マクロメディアとの合併について。Flash技術との統合で“PDF”はどのように進化するのか?
[チゼン氏] 今回のマクロメディアとの統合には、私自身も大きな期待を持っている。Macromedia Flashはパソコンやパソコン以外のデバイスでリッチコンテンツを表示する標準的なプラットフォーム。PDFと統合することで、すばらしいユーザー体験を提供できると信じている。パソコンのみならず、多種多様な携帯電話や家電など、ディスプレーを持つ多くのデバイスで広く採用されることになるだろう。
[――] 米国司法省はこの合併について、独占禁止法への抵触を気にかけているようだが?
[チゼン氏] その懸念は一笑に付していい。むしろ、気にするべきはマイクロソフトの独占でしょう。アドビとマクロメディアの製品は互いに補完しあうもので、重複する分野は少ない。また、重複する分野には今でも多くの競合他社が存在する。『Quark Xpress』のような規模の小さい競合もあれば、『GIMP』というPhotoshop対抗のすばらしい製品もある。競争を少なくするような統合では決してないし、司法省も同様の結論に達するだろう。
[――] 統合によって一部のユーザーは新しい製品を使わざるを得ない(今使っている製品の開発/バージョンアップが終了する)と心配しているが、このような懸念にどう答えるのか。
[チゼン氏] アドビもマクロメディアも、これまで顧客重視の姿勢を徹底してきた。今後も同じ姿勢で製品を維持し、機能拡張を続けていく。そんな心配は無用です。
[――] 現行製品が廃止・統合されるという心配もないわけですか?
[チゼン氏] もし廃止される製品が出るとしたら、それは(私自身にとっても)“サプライズ”だ。将来にわたって“100%ない”と確約はできないが、いまのところ考えていない。
[――] パソコン以外のデジタル機器の需要をどう考えているのか。パソコン市場と非パソコン市場をどのように捉えているのか。
[チゼン氏] “パソコン市場 vs. 非パソコン市場”という対立の構図で考えるのは意味がないこと。両方の市場が共存すると思う。クリエイティブプロや官公庁、企業は、コンテンツの作成や配信に引き続きパソコンを使うだろう。変わるのはむしろ情報を利用する側であろう。いままでどおりパソコンのブラウザーで見る場合もあるが、携帯電話やゲーム機、STB(セットトップボックス)、カーナビなど、さまざまな機器に搭載されたブラウザー/プレーヤーを使って情報(コンテンツ)に触れる機会が増えると思う。

また、チゼン氏は会場に集まったプレス関係者からの質問にも積極的に答えた。



Flash形式も将来はオープン規格に!?

米アドビ システムズ社のCEOのブルース・チゼン氏
[記者] マクロメディアとの合併時期は? 日本法人はどうなるのか?
[チゼン氏] 今ここで、具体的な期日を申し上げることはできない。確定していないからだ。ただ、今年秋には完了するとみている。秋というのは“12月20日くらいまで”は含まれるだろう(笑)。現実的には規制当局(米国司法省など)によって決まる部分が大きい。米国証券取引委員会(SEC)と両社の株主総会では満場一致の賛成を得ているので、重要なマイルストーンは通過している。
日本法人については、正式な手続きを経ていない。日本のマクロメディアは、モバイルや家電向けに優れた取り組みを行なっている。そうした有能な人材は大いに活用したい。おそらく、今のアドビの拠点を維持しつつ、マクロメディアの従業員に参加してもらう、ということになるだろう。
[記者] 具体的な製品統合の計画は?
[チゼン氏] 重複する製品は確かにある。よく言われるのが『Adobe GoLive』と『Dreamweaver』、『Adobe Illustrator』と『Freehand』だが、それぞれ両方の製品にビジネスチャンスがあると考える。これまでの数年間、GoLiveはコンテンツ制作者に、Dreamweaverはウェブ開発者向けに注力してきた。各製品の扱いの詳細は現時点でコメントできないが、Dreamweaverも今後ウェブ開発/ウェブデザインに融合を図ることは約束できる。
IllustratorとFreehandは、今でも両方の製品を使っているという方が多い。Freehandは複数ページの作成というIllustratorにない優れた機能があるからだ。
[記者] マイクロソフトが発表してきた各種グラフィック関連ツール群への対策は?
[チゼン氏] これ(マイクロソフト)は頭の痛い問題だ。ここはほぼ無限に近いリソースを持っている。また、米国司法省もマイクロソフトは独占企業であると判断している。いつも悩みの種で、私の髪の毛が薄くなって白髪が増えた一因かもしれない(笑)。ただ、この20年間でアドビはマイクロソフトに十分対抗できることを実証してきた。
マイクロソフトはこれまで何度も対抗する製品を出してきたが、技術革新によって成功し続けてきた。今後もより優れた製品や技術革新で対抗する。
[記者] 新しい日本社長への要求とは?
[チゼン氏] まず優れたリーダーシップを持つこと。200人の従業員を率いて、インスパイア(よい影響)を与える人物であること。大企業や子会社で経営経験を持つ人が望ましい。また、本部はアメリカなので英語が堪能なことも、もちろん求められる。
アドビは現在、多様なビジネスを行ない、多彩な産業に取り組んでいるので、それをハンドリングできる能力も必要だ。もし誰かを推薦したい、あるいは立候補したい方がいたら教えてください。
[記者] PDFとFlashは今後も別のラインナップとして存在するのか、統合していくのか? また、マクロメディアの買収後でFlashをPDFのようにオープン化する計画はあるのか?


米アドビ システムズ社のCEOのブルース・チゼン氏
[チゼン氏] 司法省を始めとする規制当局が、買収後の計画を(合併完了前に)話すことを禁止している。そのため、統合するまでは、独立した会社としてそれぞれが動き続ける必要がある。まぁあまり意味のあるルールとは思えないが、これには従わざるを得ない。
ただ、今どういうことを望んでいるかという話をすると、将来的にPDFとFlashの“いいところ”を兼ね備えたエンゲージドプラットフォームが作成できればいいと思う。このプラットフォームはあらゆるコンピューティング環境に対応した、拡張性の高いシステムにしたい。そして、顧客やISV(ソフトウェア開発業者)がプラットフォーム上でさまざまなシステムを構築できるようにしたい。実際、PDFはオープン規格にすることで、これまでの成功を収めた。これで理解いただけるだろう。
[記者] マクロメディアの持つウェブサーバー管理ソリューション『Coldfusion』をどのように統合するのか? また、アドビのカバーする事業領域が拡がっているが、競合する企業も増えている。これに対してどのように対策していくのか。
[チゼン氏] 確かに最近、アドビはビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)にも力を入れている。ただしこれは、広い意味のBPM(営業や本社業務などを含むビジネス全般を対象としたIT利用の業務効率化)ではなく、ドキュメントワークフローを軸にしたBPMである。広義でのBPMはIBMやSAPがすでに関わっており、そうした企業のほうが強みを発揮するだろう。私たちの目的は、ドキュメント(文書)をファイアーウォールの内外でやり取りするときに、ビジネス・プロセス上で管理でき、大規模なビジネスシステムとも統合運用できるメリットを提供するもの。
また、LiveCycleサーバーは、現在大きなビジネスに成長している。今期は1億2000万ドル(135億6000万円)の売り上げを達成する見込みだ。ここにマクロメディアのサーバー製品が加わることには大きな期待を持っている。やはり具体的なコメントは控えなければならないが、どういう風に統合できるか例を挙げると、例えばリッチアプリケーションサーバー『Macromedia Flex』とLiveCycleをつなぐと、企業はドキュメントの中にリアルタイムに変化するビジネスチャートやワークフローが含めて配信できる。ほかにもさまざまな可能性が考えられる。
[記者] 現在の3つの事業(Creative Professional/Intelligent Document/Digital Imaging and Video)に加わる、新しい事業の柱を何か検討しているのか? マクロメディアとの統合で何か新しい事業が生まれるのか?
[チゼン氏] 現在3つが考えられる。
第1は“モバイル”、第2は“リッチインターネットアプリケーション”、第3はリアルタイムの“共同作業システム”だ。マクロメディアが米国で提供して成功しているソリューションに『Breeze』という、Flash Playerを有効活用したシステムがある。これはナレッジワーカーの要求に応える製品を開発できるだろう。例えば、ある人からPDFドキュメントを入手したときに、すぐその相手とVoIP(インターネット電話)やビデオ会議でディスカッションを始めたいときに、ドキュメントの中から相手を呼び出すことができる。こういう新しいビジネスチャンスが生まれてくる。
もうひとつ、既存の事業の中にも新しいビジネスチャンスがある。それは“デジタルビデオ”だ。近い将来、デジタルビデオに革命が起きると考えている。DVDの作成と配信の能力、ブロードバンドの普及によって新たな市場が生まれる。こうした技術革新により、誰もが自由にビデオ配信を行なえる可能性が出てきた。
これらのうち、どの事業を優先するか。その選定がアドビにとっても重要。
[記者] パソコン以外のモバイル/家電などにも積極的にアプローチするというが、具体的にはどんな戦略を考えているのか。
[チゼン氏] 多くの人が情報を閲覧したり、インタラクションを図りたいと思う“あらゆるデバイス”に技術を投入していきたい。PSPや家庭用ゲーム機、HDDレコーダーなどにもAdobe ReaderやFlash Playerの搭載も検討していきたい。すでにこうした方向性ではいくつか実現したものもある。米国ではソニーのカーナビにAdobe Readerを搭載しているし、Flash Playerを搭載した冷蔵庫も登場している。これはウェブからレシピをダウンロードできるというもの。
ディスプレーがあり、何らかのCPUがあれば、どんなデバイスでもAdobe ReaderやFlash Playerを搭載できると思っている。将来は確定申告の用紙にHDTVから記入といったことも夢でない。企業や官公庁があらゆるデバイスに容易に情報配信できるシステムを構築したい。今でもすでに“情報洪水”と思っている方もいるかもしれない、情報量は今後も爆発的に増えるだろう。こうして皆さんが触れる情報を“優れたもの”にすることが私たちの使命である。


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