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【こちら秋葉原一丁目ホームページ】Act.0005「“新世界菜館”主人が見た神田の過去・現在・未来」

2005年08月25日 22時10分更新

文● 遠藤諭

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想像を遙かに超えた紹興酒

【傅】僕は新しいジャンルや比較的ベンチャーが好きなんです。ウチもいろいろと新しいことをやっているベンチャーの会社ですし。あまり目立ってないのですが1つのジャンルにおいては非常に変わったことをやっています。レストランだけじゃなく商社をやっていますが、そのきっかけは中国と日本の架け橋を始めたことでした。
 約20年前でしたが、そのとき中国と日本は接点がなかった。日本から見た中国は“竹のカーテン”といわれてました。特殊な食材のために、中国の生産者の中に入って、直接交渉しないとほかの中国料理店との差別化ができなかったんです。日中間には“日中覚書貿易協定”(LT貿易協定)以降の貿易ラインがありまして、それが唯一の窓口だったんです。それが非常に、オフィシャルなようでありながら、なんというか、私が“官”というのが嫌いで……アウトローなものですから(笑)、上海蟹の市場とか紹興酒の市場に直接乗り込んで、独自のルートで探して歩いた頃がありました。

――いつ頃なんですか。

【傅】1988年ですね。もともと紹興酒と上海蟹に興味あったのですが、これからのレストラン業界には差別化が必要だと思いまして。決まった商社を使っているとどうしても、自分の目に適ったものがなかなか手に入らないんです。
 ある日本の大使の方が中国に赴任されて戻ってきたときに、最後にプレゼントされたという紹興酒のカメを、たまたまウチのレストランで開けることになったんです。それがもう自分が最高だと思っていたものよりずっと、はるかに想像を超えたものでして。
 こんな凄いものがあると知ってから、いくら探しても手に入らなかったんです。それで自分で中国に乗り込んで探すことになりました。紹興酒は老酒の中のうち、“紹興”限定の老酒ですから、その地域で作ったもの以外は紹興酒とはいえません。それで紹興に行ってびっくりしたのが、昔の日本酒酒屋のように何百という作り酒屋が存在していたんですよ。現在は40近くまで削減されて、ある一定の技術レベルに達してない工場は存続できないようになり、品質向上に励んでいるんですけどね。そのころは、小さいところは24Lのカメを家内手工業的に何十かを作って、大手の工場向けにカメ売り専門に作っておられるところとか――沖縄の豆腐ヨウは泡盛を使って漬けていますが、中国の豆腐ヨウ、腐乳と言いますが、紹興酒を使って発酵させているんですけど――それ専用の紹興酒を作っているところとか、いろいろな紹興酒の使い道があるんですよ。
 いろいろ回って歩いていたのですが、いかんせん品質のばらつきがひどくて。24Lの瓶を1個ずつあけてチェックするのは大変な作業なんです。で、このカメ群が良いからと買うと、そのうちの3割が酸廃していたり、品質のばらつきがひどくて、いろいろな工場主さんと会って話しているうちに、品質管理が悪いので、これは技術レベルの高い職人と一緒に自分たちで作らなければダメだなと。工場を買収して、自分で作ってしまいました。

中国で金賞に輝いた「紹興大越貴酒」は、どの店でも飲める!

――作っているんですか! どれですか?

【傅】これ、全部ウチのです。「紹興貴酒」という種類なんですけどキリングループに卸しています。ウチの店には、別のラインで「大越」という名前で出しています。

――先日、こちらのお店で買って飲ませていただきました(笑)。でも作っているとは思わなかったな。

【傅】一昨年に香港で開催した“世界健康酒飲料大会”で2本の紹興酒を出品して、どちらか賞を獲れるだろうと思ったら、2種類とも甲乙つけ難いということで、金賞と特別金賞をいただきました。普通だったら金賞と銀賞になるのですが、両方とも金賞で、すごくうれしかったですね。紹興酒は紹興で作られたもので、紹興協会で作り方がキチっと決められていまして、それに沿って作られたものだけに示される名前なんです。

――あとからアルコールを追加したりは、ダメと。

【傅】ええ、法律で定められている生産工程を経たもの以外は老酒と決まっているんです。

――法律で決まっていると。省かどこかの?

【傅】国で決まってて、とても厳しいんです。違反すると認定が取り消されます。今、紹興酒として認められているのは20社ですので、ものすごい絞り込まれています。しかも毎年検査受けます。その中で国外へ出せる資格を持っているのは、現在10社。

――なんと! 並行輸入はダメなんですか?

【傅】並行輸入はやっているようです。それへの検閲がどんどん入っています。というのは、偽ブランドとかあまりにも劣悪な紹興酒が出回りすぎているためです。紹興以外の上海とか浙江省とかで作られたものとか。ま、材料はもち米と麦麹ですので、作ろうと思えば作れてしまうんです。ワインで言えば、ボルドー地方のシャトー名がつけられるのは限られてて、それ以外のものは“オーメドック”という呼び方があるんですけど、中国ではこの考え方はないんです。紹興の周りのという使い方がなくて、いきなり老酒になってしまう。もしくは黄色の酒。年老いた酒“黄酒”という呼び方しかない。もち米以外にも、穀類であれば、稗、粟、そのほかのものも発酵させればお酒になります。
 これが私どもの差別化の1つで、工場の規模的には6番目なんですが、品質では常にトップの会社です。

――「新世界菜館」は日本の会社なのに、中国でそんなことをやって良いのですか?

【傅】僕は中国国内の法人も持っているので、そこが出資してやっています。紹興酒工場の場合は外資は認められていません。

――紹興酒って、昔は宝酒造の800円くらいのしかなくって、中国料理は昔に比べてどんどんおいしいお店も増えているのに、酒だけはあいかわらずでしたよね。大きな酒屋でも1~2種類しかない。ワインはずらーっと並んでいて、日本酒も80年代のブームのときに流通がよくなって品質もよくなったのに、紹興酒は全然別ですよね。
 香港とかよく行くんですよ。一昨年の8月から昨年の8月までで6回も行ってきたんです。向こうの友達とかと飯を一緒に食ったりするんですけど、普通の店でも美味しい紹興酒が出てきたりするんですよね。この落差はなんだろう、って。

【傅】僕も香港で、なんでこの紹興酒がここの店においてあるんだ、と驚くことがありますが、自分たちで仕入れるんですね。彼らは“商道”の原点ですね。

――ちょっと悪い評判が立つだけで、食べ物屋がつぶれるらしいですね。

【傅】ウチも品評会で賞を取ってから香港の商社が買いつけて来ます。香港で認められるということはメーカーにとって、非常に嬉しいことなんです。どの店が採用しているのかがとーっても大きいんです。

――どこに入っているんですか?

【傅】有名なところに、入っています(笑)。

 紹興酒が白いラベルなのは、ウチだけなんですよ。普通は赤とか金とか銀とかでしょ? 僕は、紹興酒というのはもともとピュアなものだから、と白にした。最初は異質だとか縁起悪いとか嫌われていたんです。そこで、基本の字体と色ベースは変えないで、龍を付けたりしているうちに受け入れられて、逆に変わっているんで非常に目立つ、と。で、まがい物が増えてきました。それはすべて協会を通してクレームをつけて止めさせているんですけど。

――では中国で出されているものと、日本のものはラベルが違うと。

【傅】基本は一緒ですけど、ちょっとこう、派手目にしてあります。

――中身は一緒ですか?

【傅】中身は一緒、とはいえ紹興酒というのは、いろんなグレードがあるんです。3、5、8、10、15、20年とあるんです。ウチの場合、ピュアモルトで作るというのが原点で、自社工場で20万カメ持っているんですけど、2万坪がカメで埋まっていてどうにもならない。これ以上大きくするつもりはないんですけど。
 そのうち、一番出るのが3年と5年。売りたいものは8年10年。その辺が一番紹興酒として飲み頃で、そのまま飲むのには良いんです。燗にするのは若いものです。燗をすることによって、酒の“とがり”を取るんです。だから、紹興酒というのは燗をつきすぎるくらい付けて、戻るくらいが美味しい。基本は、生のままでいただくのが一番かな、と思っております。

――紹興では女の子が生まれたら、酒を仕込むという話を聞いたことがありますが。

【傅】あれはね、花彫(ハナホリ)と言って、ブランデーのナポレオンと一緒で等級をあらわすものではないんです。昔の女の子というのは初潮を迎えると結婚できる。13、4才には輿入れという感じで嫁にやれるんです。今のわれわれから見ると20年くらいと思うんですけど、10年から15年の間のことを言っていまして、ほとんど迷信に近い。嫁にやるときには化粧ガメを作って、だいたい中国国内では5~6年のものを入れています。

――カメじゃなかったりしませんか?

【傅】嫁入りのときはカメです。ビンでも花彫という名前をつけられるところもありますが、これも厳しく規制されています。基準はありませんが。

――3年、5年でも花彫と?

【傅】3年以上は花彫と付けられます。

――紹興酒用語って他にも、いくつかありますね。加飯酒(カハンシュ)とか、ボクは好きなんですが。

【傅】加飯酒は高いんです。米を増量しているという甘口タイプです。普通のものよりも、米を1~2割増量しています。米はもち米ですね。原料はもち米と麦麹ですから。

――米を減らすとさっぱり系、増やすと甘口ということですね。

【傅】そうです。基本は加飯酒なんです。それ以外は輸出できない。

――じゃ、すべてが加飯酒で、単に名乗っていないだけなんだ。香港に行くとよく加飯酒とか書いてあるのに、日本では何でないんだろうと思っていたら。



紹興酒のカメ

【傅】すべてが加飯酒だからです。でも、そのグレード以外のものは入れてはいけないということになっているんですけど、香港経由で入ってきちゃうんですね。だから今年の“FOODEX(フーデックス)”に醸造協会の会長が見えてウチで食事をしたときに、そのグレードに達しない奴を20種類くらい集めてきて見せたんですよ。これだけのものが「これを紹興酒とうたっているんですよ、みんなイヤでも飲め」って、飲ませて。デジカメでラベルとか撮っていいから、持って帰って規制してくれーって。
 紹興酒を嫌いだったり美味しいと思わない人は、いい紹興酒にめぐり合えてないんです。われわれは酒屋さんには一切売らない。というのは、酒屋さんは外においてしまうじゃないですか。日が当たるところへガンガン置いてしまう。だからホテルとか高級レストランとかに卸ろさせていただいているんです。

――だからなんですねえ。いっとき、(麻布十番の)富麗華で出している紹興酒を探していたんですよ。あれは何なんですか?

【傅】あれはね、工場に頼んで直接仕入れてます。オリジナルでなくて富麗華さんが自分のラベルを付けています。

――自分で気に入った工場で酒を中国で仕入れて、というやり方ですね。お店で買うと、ものすごく高いんですけど、中国で買うときっと安いんだろうなーと思って探していたんです(笑)。結局、分からなかったんですけど。一般人が買えないルートなんですね。

【傅】そうそう、買えないの。ウチは唯一、“成城石井”さんに卸ろしています。スーパーに卸ろすと値段が見えちゃうんですけどね(笑)。ブランドイメージがありますので。

――さきほど、グレードがたくさんあるといわれましたが、1ブランドでも、名前に付け方とか変えているんですか?

【傅】実は、例えば10年物であった場合、10年は全て10年ものでなければならない、というわけじゃないんです。規制をしなければならないんですけど、今つくりつつあるところで、まだ、何の規制もないんです。今は、何十カメの中に1つ10年ものがあれば10年といってしまうようなものなんです。
 紹興酒にはすべてビンテージがあるんです。必ずカメに醸造年月日を付けなければいけないんです。作られて封印するときにビンテージを入れるんです。開封すれば何年ものか分かるんです。でも、それだとなかなか合わないので、いろんな流通経路を通るととんでもない値段になってしまうので、ブレンドされてます。

――え。ブレンドされているのですか!?

【傅】そう、若い酒を。

 ブレンドというのは、いろんな酒を混ぜているのではなくて、いろんな年代を混ぜているんです。ウィスキーと一緒。いろんな種類をブレンダーがブレンドして味を作りますけど、紹興酒も一緒。
 だから、20年ものなんてそんなに持っている工場はないのに、なんでそんなに20年が出てくるんだって(笑)。

――20年ものが半分入っていたら20年と呼べるとか?

【傅】もっとです。1割くらいです。半分しか使えなかったら、市場から20年ものがなくなるくらいです。

――カメごと買えば、そういうことはないですよね。

【傅】そう。でもカメごとなんて、リスキーですよ。外れが多い。“酸化”するのと“酸敗”するのがあって、酸化だと酸が強くなっているので飲めなくはないんですけど、酸敗は乳酸が入り込むので、飲めたもんじゃないです。
 醸造酒って本当に興味深いですねぇ。面白いですよ。

――こちらのは、美味しいですよね。お値段も思ったより高くなくて。

【傅】ウチの"売り"は生酒なんです。ビン詰めするときは必ず85度以上の蒸気殺菌をしなければならないんですけど、カメだとそのままをテイスティングしてもらえます。カメの紹興酒を召し上がったことありますか?

――おいしいですよねぇ。大好きです。

【傅】カメにもいろいろありますが、良いカメをどれだけ持つかというのが、差別化なんです。いろんな工場がいいカメが持ってますからね。それを少しずつ試してみたいじゃないですか。何種類かの紹興酒工場の酒を飲み比べてもらっているんです。
 どっちが美味しいとかでなく、酸味があるとかコクがある、さらっとしているとか、それを味わってもらえます。

――ソムリエみたいな職業はあるんですか。

【傅】杜氏はいます。向こうの場合は社長イコール杜氏であることが多いんです。中国の場合は、醸造用の杜氏は国家級と地方級がいますが、何年か前までは国家級は10人しかいなかった。そのうち4人が紹興にいます。残りの6人は紹興以外で、“福建老酒”や“蘇州老酒”とか、いろいろあるんですけど。で、4人のうちの2人がウチにいます。

――へぇ~。すごい! その飲み比べはいつやっているんですか?

【傅】いつでもやれます。ウチは常にカメを持って良い状態にしてありますから、テイスティングしたいといえば、いつでも。メニューにも載っています。2500円のセットで3種類を召し上がれます。
 紹興酒のカメというのはずーっと置いておくと味が3層くらいに分かれるんです。比重があって、軽いさっぱりしたものと、分かれていくんですけど、上の方は、えも言えないさっぱりとした味でね。最初に飲むのには、そういうさっぱりしたものが飲みやすい。慣れてくるともの足りなくなるんですけど。
 ウチの酒の構成比は50%が紹興酒ですから。普通はありえない。普通はビールなんです。ウチはビールより紹興酒が出る。ですから、お客さんは非常にリピート率が高いです。



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