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開発者に聞くThinkPad X41 Tabletの秘密

開発者に聞くThinkPad X41 Tabletの秘密

2005年07月26日 00時00分更新

文● インタビュー:編集部 佐久間康仁/小林久、月刊アスキー編集部 吉川大郎

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前沢氏(1)
レノボ・ジャパン製品開発研究所、企画・開発推進テクニカル・プロジェクト・マネージャー前沢安則氏

 今回の取材を通して最も驚かされたことは、ベースモデルとなったThinkPad X41が実は最初からタブレット化を想定して開発されていたことである。タブレットを搭載したThinkPadのプロジェクトはずっと以前から水面下で進められており、これがThinkPad X41と合流する形で世に出たのである。それでは、レノボは、なぜこの時期にタブレットPCを投入しようと考えたのだろうか?

[前沢] タブレットPCをリリースした理由のひとつには、Windows XP Tablet PC Editionのエンハンス版(Windows XP Tablet PC Edition 2005)が最近リリースされ、完成度が高くなった点が挙げられます。Microsoft Officeなど、タブレットの利点を生かせるように作られたアプリケーションもあり、メールに手書きの文書を添付するなど、テキストと手書き文字の混在がやりやすくなってきました。また、海外を含めた全世界の市場では、今年大きな転換があって、来年以降倍々で増えていくという調査会社の予測もあります。市場的な部分とOSの進化の両面で環境が整ったと言えます。


前田氏
レノボジャパンの品質開発・製品保証 機構設計 次長の前田一彦氏
[編集部] 製品の開発はいつから行なわれたのでしょうか? 
[前田] コンセプト決めの段階を含めるとかなり長い期間になります。「タブレットを突破口として何か新しいことができないか」と、ディスカッションを始めたのが2003年ごろで、社内から興味のある技術者が10~20人ほど集まってブレスト(アイデアを出し合う初期段階の会議)を始めました。ディスカッションを進めるなかで単純なタブレットだけではなく、他社がリリースしているようなハイブリッドタイプ(キーボードと本体の着脱が可能な製品)を始めとしたさまざまなアイデアが出ました。具体的な製品化の話が出たのは、2004年の初めです。ThinkPad X41をベースにして、どういう製品が作れるかどうかの検討が始まりました。


木村氏
レノボ・ジャパンの製品企画の木村香織氏
[編集部] ThinkPad X41にタブレットを載せる際に、基板設計など内部の変更もあったのでしょうか?
[前田] 実はThinkPad X41の基板は“タブレットReady(レディー)”で開発したものです。X41では使用していないコネクターもあります。メカニカルの部分でも、マグネシウム合金を圧縮成型したX41のボディーを液晶パネルの付近までうまく伸ばして、センターヒンジを固定できるようにしました。その意味では一番効率のいいX41の発展型と言えます。
[木村] ThinkPad X41というモデルの開発が終了したあとにタブレットをつけたのではなく、タブレットPCを開発する専用のタスクチームが別に走っていて、その議論の成果がX41に凝縮されたのです。この点は、製品企画から見ても驚かされた部分です。


ヒンジへのこだわりなしに、この製品は語れない


センターヒンジ
ThinkPad X41 Tabletに採用された“センターヒンジ”。液晶パネルはノートパソコン状態から時計回りに180度回転する

 コンパクトにまとまったThinkPad X41 Tabletの本体は、薄型ながらしっかりとした強度があり、“堅牢性”や“耐久性”に対する配慮も感じられる。特に注目したいのが液晶と本体をつなぐヒンジである。ThinkPadクオリティーに見合ったヒンジの耐久性を実現する上で、どのようなチャレンジがあったのか? その当たりを聞いてみた。

[前田] 開発当初は本体の形状に関して10種類近いアプローチを考えました。ヒンジ機構に関しては“リアヒンジ”“サイドヒンジ”“センターヒンジ”の3種類から検討しました。

 前田氏の説明によると、リアヒンジとはリア(後部)にヒンジを持ち、液晶パネルの下を手前に引くようにスライドさせることで画面を上向きにできる機構で、液晶パネルは回転しない。1994年に登場した『ThinkPad 750P』(日本では未発表のモデル)で採用された方式だ。
 サイドヒンジは、液晶パネルの左右を2本のアームで支え前後に回転させる機構。
 最後のセンターヒンジは液晶パネル下側に左右(水平方向)に回転するヒンジを置く機構であるという。ThinkPad X41 Tabletでは、結局センターヒンジを選択したが、その理由は全体のサイズと重量を抑えられるためだったという。



リアヒンジ
製品開発にあたって3種類のヒンジの採用が検討された。写真はリアヒンジを採用した『ThinkPad 750P』(日本未発表モデル)
[前田] 最終的にはセンターヒンジに落ち着いたわけですが、センターヒンジでも2~3種類の試作をしています。今回は薄型の専用バッテリーを使い、キーボードのスグ後ろにヒンジを配置する方法を取りましたが、例えばバッテリーをX41と同じものにして、バッテリーの上にヒンジを持ってくる方法なども案としてあったんです。厚くなりすぎるということで、採用しませんでしたが。

 前田氏は、キーボードとバッテリーの限られたスペースにヒンジを置くことには「たいへんな苦労があった」と言う。回転半径の小さいヒンジを選択すると同時に耐久性の確保が必要になるためだ。

[前田] ヒンジのサプライヤー(部品供給会社)は最終的に1社に絞りましたが、開発過程では複数社に声をかけました。中の構造物もすべて調査して、サプライヤーと設計を進めていきました。その一方でどういう規格を満たせたら、品質に自信が持てる製品が作れるかを検討しました。例えば、1万回ヒンジを動かした際でも“がたつき”がコンマ何ミリの範囲内に収まらないといけないなど、厳密なテスト基準を決めていったんです。


落下試験などの品質基準はタブレット用にさらに厳格とした



 品質基準に関しては、ThinkPad X41と同等の基準をクリアーするのはもちろんのこと、タブレット独自の試験を新たに設けたという。

固定用のラッチ
液晶パネル部分と本体を固定するラッチは裏表に出る
[前沢] プッシュテスト(本体を上下からはさむように力を加えた際の耐久性)を始めとした耐久テストは従来のThinkPadのクライテリア(品質管理基準)にのっとっています。また、落下テストの基準に関しては従来より厳しいものにしています。タブレットは手に持った状態で使用するため、一般的なノートより数十cm落下する位置が高いだろうというのが理由です。
[前田] それ以外にも“CSRT”(Customer Simulated Reliability Test)というユーザーの使い方を想定したテスト基準を設けています。例えばLCDを持って持ち上げたり、ヒンジを逆方向に回すなど、乱暴な使い方にも対応できるテストを行なっています。
[編集部] 液晶を反転した際、真ん中のツメ1つで固定しますが、ここの仕組みは面白いですね。これは薄さを実現する上で考えたものでしょうか?
[前田] (よくぞ聞いてくれた、という表情で)このラッチの部分だけでも3回作り直したんです。表裏にラッチが出るという仕組み自体は他社もやっていますが、その中でもしっかりとした使用感を得られるように配慮しました。ここも開発段階ではいろいろなアイデアがあり、より複雑でコストがかかるものも出てきたのですが、最もユーザーの使用感がいいという理由でこの仕組みを採用しました。
[編集部] 液晶パネルのフレームとキーボードのある本体部分が貝殻のようにしっかりと噛み合って強度を確保しているのが、従来のThinkPadの特徴のひとつだったと思います。今回の製品にはそれがないようですが。
[前田] “クラムシェル”の構造は、ねじりへの耐性を考慮して採用してきたものですが、今回は液晶パネルを裏返す必要があるため、フラットな形状としました。これはユーザビリティーのチームから強い要求があった部分です。ペンで書く際に液晶パネルとフレームの段差が少ない点も使用感を高めている理由のひとつだと思います。


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